大泉洋「室町無頼」で時代劇の完全復活なるか? 「侍タイムスリッパー」は興収8億円の大ヒット
才蔵が「六尺棒」の達人になるまでの1年間にわたる命がけの修行のシーンや、室町時代を再現した京の町並み、剣や矢が人の体を斬り、刺さるリアルな描写など、VFX映像は全編に及ぶが、実写との連動に全く違和感はない。兵衛を中心とするアウトローたちは、いずれも超人的な身体能力の持ち主だが、彼らの動きも合成をうまく使ってスピーディーかつテンポよく見せている。
全体として貧困と病が蔓延する、社会に対する民衆の怒りが一揆の原動力になっているが、その描き方はあくまでエンタメ寄り。兵衛を含めた9人の仲間たちが、圧倒的な数を誇る幕府軍に戦いを挑む姿は、どこか「ONE PIECE」の麦わらの一味を思わせるし、今は立場が分かれた兵衛と骨皮の関係は西部劇のアウトローと保安官を思わせる。その意味でも実写の時代劇とアニメーションのアクションが一体となった世界観になっていて、一つのジャンルではくくれない面白さを持った作品だ。
昨年、時代劇が話題にはなったが、その主な映画の興行収入の数字を見ると、「碁盤斬り」が4億円(昨年12月23日現在、以下同)、「身代わり忠臣蔵」が4.8億円、「八犬伝」が6.6億円、「十一人の賊軍」が3.9億円と、公開規模に違いがあるので一概には言えないが、いずれも大ヒットとは言いがたい。それだけに「侍タイムスリッパー」の健闘が目立つのだが、あの作品はSF、コメディー、人間ドラマ、時代劇へのオマージュなど、複合的な要素を持ったエンタメとしての面白さが、幅広い世代から支持された。「室町無頼」もエンタメとしては、それに続く可能性を秘めた作品だけに、観客の反応が気になるところ。2025年は数字の上でも時代劇の完全復活なるか。その期待がかかる一本である。