世界の映画祭で13冠を獲得。『事実無根』は父と娘の絆をめぐる謎解きドラマ
「父と娘の絆」は永遠のテーマ
この3人の間である秘密が明かされ、「そうきたかぁ」と膝を叩いているうちに、あれよあれよと物語は展開。登場人物が増え、さながら人間関係の品評会のような賑わいの中で謎解きが進んでいく。
男と女が結婚すれば子供という副産物が生まれる。離婚すれば家族の崩壊という悲劇が発生するものだ。そうした不幸のテーブルの上で各人のけなげな心情をつなぎ合わせてみたら、バラバラのピースがパズルのようにひとつにまとまった。なるほど、よくできた脚本だ。海外で高評価を得られたのは、洋の東西を問わず「父と娘の絆」が永遠のテーマだからだろう。そのテーマは喜劇にも悲劇にもなりうる。
物語の中心にいるのは沙耶だが、彼女をサンドイッチのように挟んでいる星と大林の存在がこの人生劇を愛情で満たしている。大げさに言えば、2人の大人が人間精神の何たるかを語っているようだ。東茉凛の演技はまだまだ進化中だが、このオッサンたちが頑張ったおかげで感動作に昇華された。店の常連客が背負う哀しみの逸話も隠し味として美味を演出している。
劇中の「そのうちcafe」は京都市内で営業する実在の店だそうな。行ってみたくなる。星と大林、沙耶の3人が「いらっしゃい」と迎えてくれるような気がするのだ。(配給=MomentumLabo.)
(文=森田健司)