「guinea mate」我喜屋位瑳務著
「guinea mate」我喜屋位瑳務著
注目のアーティストのドローイング作品集なのだが、著者自身の本書の位置づけは「教典」だという。
幼少期から「生きづらさ」という感覚を覚えていた著者は、この世界で生きていくために、代々のペットのモルモットを「神」に設定して、オリジナルの宗教を「でっちあげた」。
本書は、その宗教から生まれた「自分自身の生き方と生活を肯定するための、より良い人生を送るための教典」なのだそうだ。
といっても、堅苦しいことを説いているわけではない。
教義の「第1条」は「できるだけ10時間は寝る」。「人生は眠った時間もの勝ち。寝るために私たちは生まれてきたのです」と、モルモットを頭に乗せながらも深い眠りについている女性や、「まっくろくろすけ」のヒト型バージョンのような物体と白いむくむくとした生き物に見守られ眠る少年を描いた作品など、教義に基づく作品を添える。
第2条「必要以上に人に会わない」(ちょうど良い距離感のためにも、たまにでいいのではないか)では、猫を肩に乗せ窓から外の様子をうかがう女性や、観客が1人しかいない映画館でスクリーンを見つめる少女を描いた作品が。
さらに第3条「疲れたらすぐ休む」(良い思考を回復させましょう)では、他人の前でかぶっていた仮面を脱いで休憩室のようなスペースに入っていく人物などを描いた作品が並ぶ。
以降、「約束はなるべくしない」(第8条)、「期待をしない」「期待をさせない」(第12.13条)など全108カ条のうち、本書には24条を収録している。
第6条「自分だけを信じる」(他人に対して「信じる」という概念が生まれた時点で「裏切り」という呪いがついてきます)に添えられるのは、女性が胸を切り開いて体内をこちらに見せている作品。その体内に同じ髪形をしているがこちらはまったく表情がないもうひとりの自分が描かれている。
そうしたシュールな作品があるかと思えば、第7条「人を呪ってはならない」(人を呪う時間があるのならば、その気持ちを自己愛へと変換しましょう。人を呪わば穴二つ)では、「呪いの藁人形」の腹からぎっしりと詰まった納豆を箸でひとすくいして「うらみつらみをおいしいに」とブラックユーモア的な味わいの作品もある。
どの「教え」もシンプルながら、人生を生き抜く上で大切な心構えを説いている。
人生を懸けて「いかにして自分を救うか」ということに取り組んでいる著者は、「毎日祈りを捧げるかわりに好きなことを毎日やる。私は絵を描くことで自分を救っているのです」と記す。
その作品が、生きづらさを感じて苦しんでいる人の背中をそっと押してくれることだろう。
(トゥーヴァージンズ 3960円)