かつて世界の最前線にいた日本は、なぜ取り残されたのか
このたび、日刊ゲンダイさんからお声がけをいただき、隔週で、日本の産業、経済、企業などについて論じる連載コラムを執筆することになりました。どうぞよろしくお願い致します。
今回は初回ということもあり、私自身の略歴を少し紹介させていただきます。私は長年、ビジネスの現場で活動してまいりました。キャリアのスタートはソニーで、その後グーグルに移り、のちに独立して起業しました。また、複数の企業で社外取締役を務め、大学の客員教授などの立場でも活動してきました。規制改革や地域振興といった分野では、国家行政や地方行政にアドバイザーとして関わった経験もあります。
また、こうした実務経験を通じて得た知見や問題意識を、著作、メルマガ、SNS、講演などを通じて積極的に発信してきました。
私が大学を卒業してソニーに入社した当初、日本は高度経済成長のさなかにありました。戦後復興を経て、家電、自動車、半導体などの分野で日本企業が世界市場を席巻し、「メード・イン・ジャパン」は高性能・高品質の代名詞として、世界中の人々を魅了しました。
当時、日本は「科学技術立国」を標榜し、半導体は「産業のコメ」とも称されていました。大型コンピューター(メインフレーム)の市場でも、日本企業はIBMを脅かす存在となり、日本は科学技術先進国、貿易黒字国として、米国に次ぐ世界第2位の経済大国へと上り詰めました。
しかし、1985年のプラザ合意による円高・ドル安の誘導、86年に始まる第1次・第2次日米半導体協定、88年のスーパー301条による対日制裁など、米国の政治的圧力をきっかけに風向きが変わり始めます。そして2000年代に入り、情報通信革命が本格化してインターネット時代に突入すると、日本の競争力の低下が顕著になりました。
そしてウェブ2.0の時代になり、クラウドやソフトウエアが産業競争力の決め手となると、日本の立ち遅れはさらに顕在化し、「デジタル後進国」とも呼ばれるようになってしまいました。昨今では「デジタル赤字」がメディアでも頻繁に取り上げられますが、その規模は年々拡大しています。24年度には約6.7兆円に達し、このままでは10兆円を超えるのも時間の問題です。
かつては世界の最前線で進化を牽引していた日本が、なぜ多くの産業分野で取り残される側に回ってしまったのか。その原因を解き明かすことは、これからの国家戦略を考える上でも非常に重要です。
本連載では、日本凋落の要因、背景にある世界の変化、そして今後の進むべき方向性について、多角的な視点から考察していきたいと考えています。