大井町にはオフとオフ・オフが…ボンカレーの看板を見ながら炭火焼き鳥とホッピーで人心地
大井町(品川)②
ミュージカルの本場ブロードウェーにオフ・ブロードウェーとオフ・オフ・ブロードウェーがあるように、大井町にもオフがある。東小路はオフ大井町、その先に延びている平和小路はさしずめオフ・オフ大井町といったところか。
この路地は一歩、足を踏み入れれば魑魅魍魎が跋扈していそうな店が軒を連ねている。魚中心のおばんざいふうの店、イタ飯立ち飲み、ビアバー、串で食べるうなぎ屋、中に入るまでなんだかわからない店が数軒。それぞれ5、6人で満員御礼だ。
そのオフ・オフの中ほどに80キロ以上の人は横にならないと通れない路地というより、隙間がある。そこを抜けたところにあるのが今日の1軒目「昭和浪漫」。
もともと竜馬という居酒屋を、数年前に炭火焼き鳥中心の今の店に変え、オーナーの鈴木さんが持っていた昭和のガラクタ、いや失礼、お宝を飾って新たにスタートさせた。
アタシが行ったのは午後6時ごろ。まだ客もパラパラ。10人ほど座れるカウンターに陣取り、炭火の本格焼き鳥(180円~)とホッピーで人心地つく。聞けば若い客は7時近くから集まってくるようだ。若い勤め人は男女を問わず忙しい。奥のテーブル席は7時からの客の予約でほとんど埋まっている。
カウンターの上の壁には古いSPレコードが所狭しと飾られ、昭和の象徴、キンチョーの由美かおるとボンカレーの看板が並んで張られている。なぜか梅宮辰夫主演の東映のポスターが張られていて、健さんじゃないところがB級っぽくてアタシ好み。それらを見ながら先輩上司が自慢げにうんちくを披露し、それを若い部下たちがテキトーに耳を傾けるという光景がここでは日常的だそうだ。さて、ホッピーを飲み干し、2軒目へ。
死ぬほど安い
平和小路からゼームス坂通りを渡り東小路を縦に突っ切るすずらん通りへ。ここは言わば無国籍的飲み屋横丁。いつも混んでいる「肉のまえかわ」は、肉屋なのに店内でメンチをつまみに立ち飲みできる。斜め前には昔のままの角打ち武蔵屋酒店。そこでは若い女子2人がビールケースのテーブルをはさんで缶チューハイをあおり、最近オープンした大井町バル横丁では家族連れがエスニック料理で舌鼓。昭和と令和が混在している一角に、立ち飲み中華「臚雷亭」がある。10人も入れば満員の小さい店だが、ツマミは本格中華。しかも死ぬほど安い。
今日は中生(350円)に蒸し鶏(250円)、シューマイ(280円)を注文。中国人の元気なおばちゃんが2人でやっている。ここだけ見たら上海の旧市街にワープしたみたい。アラ還男3人しかいなかった店内が、気が付いたら女子連れの若いサラリーマンでいっぱいだ。女子たちは店が珍しいのかキョロキョロしながら興味津々の体。「エビマヨが340円! マジ~」「トマ玉(トマトと卵炒め)も410円!どれにしようか」。
すかさず店のおばちゃんが、たどだどしい日本語で「全部おいしいよ。若いからそれくらい食べられるよ」。混んできたら長っちりはヤボ。帰り際に店名の由来を聞いてみた。「チメ」。あ~、地名ね。どうやらオーナーの出身地が臚雷というところらしい。(藤井優)
○昭和浪漫 品川区東大井5-6-11
○臚雷亭 品川区東大井5-4-15