「変えてはいけないものがある」…浅草のオーセンティックバー「サンボア」店長の矜持
30年ほど前のこと。関西に出張すると、夜は決まってお得意さんと飲み歩いていた。散々、飲み倒して彼らを車に乗せて帰した後、一人で締めるのは決まってバー「サンボア」だった。
サンボアは京都、大阪、神戸にあり、客と一緒でも、一人でも実に居心地のいいオーセンティックバーだ。今は暖簾分けした店が15店舗。今回はその中のひとつ、浅草店にお邪魔した。
バーというと、飲み歩いた末にたどり着く最後の店というイメージが強い。が、遊び慣れている連中は、行きつけのバーの口開けで軽くひっかけて「ちょっと行ってくるよ」と出て行き、2~3時間後に「ただいま」と戻ってくる。するとバーテンダーが一言、「おや、お一人ですか? 女性とご一緒かと思いましたが……」。意地悪な笑みを浮かべて言うのである。アタシもアフターでは振られたクチです。
氷なしハイボール(1210円)を飲みながら、サンボア統括店長の松林さんとそんな話をしていたのはまだ明るい16時半ごろ。浅草サンボアの営業時間は14時から23時だ。
「コロナ禍をきっかけに開店時間を大幅に早めましたら、団塊の世代のお客さまが早い時間にお見えになるようになったんです」
いや、団塊の世代ばかりではないですよ。アタシら還暦世代も早飲み賛成。
「ホテルのバーでしたら昼でも営業していますでしょ」
確かに。が、いろいろとご苦労もおありのようだ。
「土地柄かもしれませんが、この辺のシニア層のお客さまは昼飲み居酒屋気分で来られる方が多くて……バーには絶対置いていないおつまみを頼まれたり、盛り上がって羽目を外されたり……」
松林さんが苦笑しながら続ける。
「熱燗と塩辛って言われましてもねえ……(笑)」