“リアル峰不二子”と運命の出会い。どうする? 40代男性社長が抱える身体のコンプレックス #1

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コクハク

 恋愛をするにあたり、避けて通れないのが「ベッドでの秘め事」だ。愛する人と肌を合わせ、温もりを感じ、ひとつになる幸せは何物にも代えがたい。

 だが、自分の体に大きなコンプレックスがあったらどうだろう?

 今回、取材に応じてくれたのは直樹さん(仮名・43歳工務店社長/既婚・子供アリ)だ。

 ワイルドな顔立ちに長身で細マッチョの体。シャツにデニムというシンプルな装いは、学生時代はサッカーで鍛えた彼の肉体の魅力を存分に示している。

 そんな彼には大きなコンプレックスがあったという。直樹さんは語る。

「悩みの種は、貧相な局部です。自分の思い込みかもしれませんが、女性と付き合う機会はあっても、なかなかベッドに誘えなかった。積極的になれず、それが原因でフラれることも多かったですね」

ビジュアル由来の期待を裏切れないと…

――気持ちはお察しいたしますが、男性が気にする一方で、『気にしない』という女性もたくさんいると思いますが。

「ありがとうございます。体より人間性や価値観が大事と言ってくれる女性もいました。ただ、僕の場合は『ルックスから好きになってくれる』ケースが多くて…。

 身長も180センチと高く、筋肉質で野性的な顔立ちのため、その期待を裏切ってはいけないと思うほどに、女性と親密になることを自ら避けていたと感じます。

 そんな僕に転機が訪れたのは、38歳の時です。工務店の社長だった父(58歳)が脳溢血で倒れて入院することとなり、副社長だった僕が急きょ社長になりました。

 社員は20名ほど。父は昔気質の昭和の男ですが、情に厚い部分もあり、皆から慕われていましたね。社長になって気ばかり焦っている僕を見て、古株の社員たちが、『オヤジさんには世話になりっぱなしだった。直樹さん、一緒に頑張りましょう』と言ってくれたのが救いでした。

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人生を変える出会い

 そして、人生を変える出会いもありました。事務員として、玲子さん(仮名/当時33歳独身)という女性が入社してきたんです。

 玲子さんはセミロングの似合うエキゾチック美人で、一目で惹きつけられましたね。白いシャツに紺のタイトスカート、ハイヒールという普通のファッションでも、内面からにじみ出る色香というものがあって…。

 会社を守らねばと意気込んでいた矢先の思いがけない出会い――でも心は複雑でした。前述したとおり、僕は下半身に大きなコンプレックスを抱いていました。

 仕事に邁進している時は忘れることができましたが、玲子さんと出会ってからというもの、悩みの種が芽吹いてきたんです。

 そんな僕の心など知る由もない玲子さんは、フレンドリーに『社長って典型的な細マッチョですね。私、筋肉フェチだから見とれちゃう』とか『雑用でもなんでも言いつけてください。学生時代は体育会系だったので、体力には自信がありますから』なんて、気さくに言ってくれました。

 実際、彼女は仕事も早く有能で、来客の時などいち早くお茶出しをしたりと機転が利く女性。その上、『一人旅やドライブが趣味で、休日には必ず出かけるんですよ』と、旅先でのお土産を社員たちに買ってきてくれたりと、本当に気さくで他人を思いやる一面もあり、すぐに会社のムードメーカー的な存在になりました。

 美人なので、弊社を訪れる取引先のみなさんもひそかに喜ぶのが手に取るようにわかってね…(笑)。いい人が来てくれたと、感謝したものです。

 そんな彼女に、気づけば惹かれていました。社長という立場で社員を好きになってはいけないと思うほどに、恋心が抑えられなくなって…公私混同ですよね」

社長としての覚悟も生まれ

――社長として悩むお気持ち、理解できます。でも、気づけば落ちているのが恋ですものね。続けてください

「おっしゃる通り、気づけば彼女に恋をしていました。38歳になっても独身で女っ気のない僕に哀れみを感じていたのかもしれませんが、5歳も年下なのにアネゴ肌で明るくて、切符がいい。ますます惹かれていく自分がいました。


 古株の社員たちが『落ち着いたら、社長就任祝いと、玲子さんの歓迎会を兼ねて飲みましょう』なんて話も出てきたんです。入院から3カ月後には、父の具合も良くなって、自宅療養ができるまで回復していました。

 職場への復帰は無理でも、実家で母と穏やかに暮らしてくれている。家族が健康でいてくれることへの感謝とともに、ますます『この会社を守っていこう』という覚悟が揺るぎないものになりました。

「リアル峰不二子!」の声にドキドキ

――お父様が元気になられて良かったですね。続けてください。

「社長業にも徐々に慣れていきました。社員たちがファミリーのように仲が良く、人間関係に悩まなかったのもありがたいですね。父が築いた会社は本当に素晴らしいと、今さらながら再認識したものです。

 玲子さんも社員たちと打ち解けて、時々、女性社員と日帰り温泉に行くこともあったようです。

 休み明け、女性社員たちが『びっくりしたわー。玲子ちゃんたらナイスバディなのよ!』『まさにリアル峰不二子!』なんてはしゃいでいて、男性たちのほうが『こら、逆セクハラだぞ』なんて困ったように笑っているんです。僕もドキドキしました。

(ああ、仕事中だよ…マズい)

 パソコンの前で、僕は腹に力を込めました。難解な数式を思い浮かべたり、歴代総理の名を羅列したり…。そうでもしないと下腹が熱くなっていく。あの時ばかりは、サイズのコンプレックスなどそっちのけで、必死に肉体コントロールに努めましたね(笑)。

会社の飲み会で急接近

 彼女と一気に距離が縮まったのは、会社の飲み会です。以前から『社長就任祝いと玲子さんの歓迎会をしよう』と言われていたので、近所の居酒屋で会を開いたんです。

 普段から仲のいい連中ですから、飲み会も楽しくてね。特に玲子さんは飲みっぷりも良くて、カッコいい! 女性らしいんだけれど、どこか男が惚れる男の部分もあって、その時、ふとこう思ったんです。

彼女なら、傷つけるようなことはしないのでは?

(玲子さんだったら、僕のコンプレックスを打ち明けても、励ましてくれそうだ)

 あの屈託のない笑顔やスーパーポジティブな性格、仕事では迅速に正確にこなす聡明さ――彼女なら絶対に僕を傷つけるようなことはしない。

 宴会もお開きになりそうな時、彼女と居酒屋の狭い廊下ですれ違ったんです。

――社長、お疲れ様。楽しくて飲みすぎちゃった。

 化粧室から出てきた玲子さんは頬を紅潮させて、笑みを浮かべてきました。タイトスカートから伸びた脚がちょっとふらついていて、

――玲子さん、危ない。

 思わず腕を引き寄せてしまったんです。すると、彼女は僕の胸に頬をうずめてくるではありませんか。

(えっ)

 胸が高鳴りました。甘い香りが鼻先を揺らぐと、

――社長、やっぱりいい体ですね。ますます好きになっちゃいそう。

 酔ったせいでしょうか、玲子さんは僕の胸や腹あたりの筋肉をさすってきたんです。

社長が社員と恋愛関係になるなんて

――こら、酔いすぎだよ。

 そう言った刹那、玲子さんが顔を上げたんです。次の瞬間、僕たちは唇を重ねていました。熱い吐息がぶつかり、酒と唾液の匂いがまじりあう。

 ずっと憧れていた玲子さんとキスをしている…僕は信じられない思いに包まれました。

――ご、ごめん…。

 僕はとっさに顔を背けました。社長が社員と恋愛関係になるなど、許されるものではありません。ましてや歓迎会でキスなんて…。踵を返そうとした時、

――なぜ、謝るんですか? 社員さんたちに示しがつかないから?

――えっ?

――私は社長が好き…。別に悪いことじゃありませんよね? 私も社長も独身ですから。

彼女からの驚きの指摘

 予想外の言葉が告げられました。そう、玲子さんが言う通り、決して悪いことはしていない。社員への後ろめたさはあっても、僕たちは自由に恋愛できる関係なのです。

――僕も玲子さんが好きだ…。

――嬉しい。

――ただ…社員たちの手前、大っぴらにできない。しばらくは秘密にしてくれないか。

――もちろんです。私は真剣にお付き合いしたいと思っていました。

――なぜ、僕を…?

――だって…社長ったら、カッコいいのにいつも自信なさそうなんだもの。きっと私みたいなテキパキした女がそばにいたほうが安心してお仕事できるわ。

 玲子さんはニッコリ笑いました。それがまた可愛くてね。ただ、彼女に『自信がなさそう』と指摘されたのには驚きです。

――自信がないように見えたのか?

――ええ…なんか、引け目に感じてるというか、大きなコンプレックスがある感じ…。良かったら聞かせてほしいな。

――やめとくよ。ドン引きされたら困るから…。

――ドン引きなんてしないです。これから真剣に付き合おうって言う男女は話し合わなくちゃ。

 この時点で僕はすごく迷いました。サイズで悩んでいるなんて、口が裂けても言えません。でも彼女は『教えてくれないと、皆の席に戻れない』と食い下がってきて…」

 次回に続く。

(蒼井凜花/作家・コラムニスト)

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