「イタリア女子が沼ったジワる日本語」テシ・リッゾーリ著
「イタリア女子が沼ったジワる日本語」テシ・リッゾーリ著
「お疲れ様という日本語は、やばいっす」と笑ったのは日本語が堪能なエストニア人だった。「疲れ」に「お」と「様」を付けるなんてすごい、と感じるらしい。カリブ海に浮かぶ島国バルバドス出身で、やはり完璧な日本語を話す女性は言った。「わたしが好きな日本語は『暖かかった』です。暖かいの過去形。タタカカっていう音が好き」。えー、そこ!?
中にいると当たり前すぎて気にも留めないことを、外から来た人は「発見」する。わたしは古今東西のそういうエピソードが大好き。とりわけ、このややこしい言語(日本語)が外からどう発見されるのかについては興味津々だ。だからこの本は刊行前から楽しみにしていた。イタリア出身で6カ国語を操る語学の天才が、日本語に「沼った」というのだから、絶対におもしろいはず、と。
果たして、著者のテシさんの琴線に引っかかる日本語はどれも「そうきたかー」「さすが!」とうなるものばかりだった。たとえば江戸時代の刑場「土壇場」と英語の「キャンセル」が合体した語「ドタキャン」。駅のアナウンスに頻出する「駆け込み乗車」というフレーズ。さらには芋の「煮っ転がし」。いずれも指摘されると俄然ヘンテコな、味わい深いことばに見えてくる。
そして本書のもうひとつの読みどころは、若い女性であるテシさんが日本各地にドカドカと出かけ、ヒッチハイクをし、銭湯を堪能し、ゲストハウスのおばちゃんと仲良くなっていくディープな旅の顛末だ。おもしろい発見は、好奇心をもって行動してこそ得られる、という大事な真理を思い出させてくれる。
(亜紀書房 1870円)