井上理津子
著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

FOLK old book store(大阪・平野町)地下の空間に新刊7割、古本3割の硬軟バランス抜群の選書

公開日: 更新日:

 東横堀川を背に、小ぶりなビルが並ぶオフィス街。近辺の風景に溶け込んでいる。「地下本屋・展示スペースへの階段は店内入って左奥にあります」との案内ボードも控えめだ。

 建物に入ると、カレー屋さんで、この日はその3分の1ほどで「絵本半額」のセール中だったが、よそ見せず、いざ行かん地下へ、である。と言っても、あれれ階段はどこ?

 なんとか見つけた階段を下りていくと、本いっぱいの17坪の空間が広がり、秘密基地見つけた~の気分だ。オフィス街から人が消える土曜日にもかかわらず先客が結構いらっしゃった。

 一等地の平台に、「小山さんノート」「私がホームレスだったころ」「福祉の使命」「愛と差別と友情とLGBTQ+」が積まれていることに驚く。

「いきなり人権系で攻めてくるって、すごい。これまで200軒くらい本屋さん回ったけど、2軒目です」

「え? そうですか。その平台には売れ筋を置いているつもり。ホームレス……は、今仕事があっても、いつなくすか分からないと危機感を持っている人が実は多く、問題意識があるんじゃないかな」

「ここはマジで使える本屋」と常連客

 店主・吉村祥さんとそんな話を最初に。

 店内を回り、「これはひとつの、社会運動です」と帯にある「したてやのサーカス」、養老孟司「ものがわかるということ」に手が出る。田辺聖子、青木玉、沢木耕太郎が隣り合っていたり、「旅」くくりのコーナーの真ん中に「アインシュタインの旅行日記」が置かれていたり。詩歌の棚は、著者の有名無名を不問に大量に並んでいる。はたまたドラえもんのコップなど、懐かしい雑貨もあちこちに。硬軟のバランス抜群だ、と思った。最終的に、大竹昭子さんの私家版エッセー集を握りしめた。

「今、新刊7割、古本3割です」と吉村さん。

 本も置く梅田の雑貨店勤めを経て、神戸の「トンカ書店」、京都の「ガケ書房」の影響を受け、いわく「勢いで(笑)」、北区内で独立したのが26歳のとき。2年後にここに移って、もう12年が経つそう。

「ここは、マジで使える本屋」と、常連客が言った。

◆大阪市中央区平野町1-2-1 㐧2エイワビル1階・地下1階/大阪地下鉄堺筋線・京阪北浜駅から徒歩8分/13~19時(土日は18時まで)/月曜休

ウチの推し本

「キーホルダー」
POTATO PRESS(2200円)

「5月末日に刷り上がってきたばかり。ウチが『POTATO PRESS』という名前のレーベルをつくって出版する、1冊目の本です。スケラッコ、黒木雅巳、カシワイ、奥田亜紀子、花原史樹の5人の漫画家に、本をテーマに短編の漫画をオファー。本屋や図書室を舞台にしたストーリーが上がってきました。『キーホルダー』は、お守りのようなイメージで名付けたんです。ぜひ読んでみてください」

【連載】本屋はワンダーランドだ!

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