霜田正浩技術委員長が今語る「ハリル日本」誕生の舞台裏(2)
■指揮官の発信したいもの
――ハリルホジッチ監督初采配のチュニジア戦(3月27日)、ウズベキスタン戦(31日)では選手を多めに招集。バックアッパーも選びました。
「監督が提案し、私たち代表のスタッフも『興味深い』と判断して採用しました。確かに異例のことですが、『今までやってきたから』『これまでやったことがないから』といった既成概念にとらわれず、柔軟にやっていくことも必要だと思います」
――Jリーガーのモチベーションも上がったのではないでしょうか。
「監督からの『これから競争がスタート。皆さんのことはしっかり見ていますよ』というメッセージです。来日して1週間で代表リストを作ったので不完全な部分があったかも知れないし、これから顔ぶれも変わってくるでしょう。私たちは海外組、国内組を分けて考えていません。海外組だからストレートに代表に入ることはありません。いずれにしても『多くのJリーガーたちに期待している。早く代表メンバーに入ってこい』というメッセージは、確実に伝わったと思っています」
――チュニジア戦前に大分で10日間の初キャンプを行いましたが、ウズベキスタン戦の後半、わざと相手に攻めさせてカウンターを仕掛けて4点を奪いました。何が変わったのでしょうか。
「4月23日のJリーグ強化担当者会議でハリルホジッチ監督のミーティング内容をすべて伝えました。ポゼッションか、カウンターか、4-4-2がいいのか、それとも3-5-2なのか、そういった方法論やシステム論ではなく、サッカーの本質をもう一回きちんと見つめ直し、そのことをサッカー協会として発信していきたいと思います」
――具体的には、どういうことなのでしょう。
「代表の試合は、親善試合であっても国と国との真剣勝負です。相手のレベルやコンディションに関係なく、まずはプライドをかけて戦うことを意識したい。そのことを伝えるのが、ハリルホジッチ監督は上手だった。今までは日本のスタイルはこう。日本はかく戦うべしにとらわれ過ぎた。自分たちのやり方を貫いて勝てればいいのですが、ブラジルW杯では勝てなかった。今まで築いてきたモノを土台にしながら、サッカーの本質とは何か、近代サッカーには何が求められるのか、などをミーティングと練習で選手に浸透させました。『チームとして多くの選択肢を持ちながら、戦術的な柔軟性がないと強豪を相手にジャイアントキリング(番狂わせ)はできない』と話しながら、具体的なプランを語っていました」
――Jリーグ強化担当者会議でハリルホジッチ監督に対する評価は、いかがだったのでしょうか。
「まだ評価を下す時期ではないと思います。監督が日本サッカーに何を求め、何を必要と思っているか。それらを踏まえた上で現時点の日本代表がやるべきことは何か、発信すべきモノは何か、をちゃんと整理して技術委員会で話し合い、Jリーグ全51クラブの強化担当者に伝えました」(つづく)
(取材・構成=六川亨・サッカージャーナリスト)
▽しもだ・まさひろ 1967年2月10日、東京・豊島区生まれ。都立高島高卒業後、ブラジルに渡ってサントスの下部組織などに在籍。同時期にブラジルでプレーしていた三浦カズと交流。88年に帰国してフジタ(現湘南)、京都紫光クラブ(現京都)でプレー。94年から徳島、京都、FC東京、千葉などでコーチを務めた。10年から日本サッカー協会技術委員。14年9月に技術委員長に就任。