阿部慎之助は頭からタオルをかぶり顔を隠して泣いていた
慎之助は、「針のむしろ」という心境だったと思います。試合後のロッカールームで頭からバスタオルをかぶり、顔を隠して泣いていたことは一度や二度ではありませんでした。その後、押しも押されもせぬ巨人の顔になりましたが、敷かれたレールに乗って今の立場を得たわけでは決してないのです。酷評に耐え、努力でそれをはね返した結果です。今季、正捕手候補として期待されながら、二軍落ちで足踏みしている2年目の小林誠司にもこれを励みにしてもらいたいと願っています。
慎之助が球界を代表する捕手になった要因を僕なりに考えてみると、才能と努力はもちろん、天性の明るさと人懐っこさがプラスに働いたと思います。先輩選手はみな、厳しく接しながらも、なんとか慎之助に一本立ちして欲しい、という愛情がありました。
かくいう僕も1年目のオフ、「一緒にやるか?」と恒例にしていたグアムへの自主トレに誘いました。二つ返事で参加を希望した慎之助と打撃投手の2人を含めて、メンバーは総勢7人。選手の飛行機代こそ各自負担でしたが、ホテル代などの滞在費は年長の僕が負担しました。毎年の持ち出しはきつかったですが、今は慎之助が若い選手を引き連れてグアム自主トレを行っています。