五輪強行開催の損失は“中止で4.5兆円”超えの最悪シナリオ
「開催しないと日本崩壊」はまやかし
東京都は五輪招致が決定した翌2014年に「外国人旅行者の受入環境整備方針」を打ち立て、一気呵成に都の観光インフラを構築。政府も観光立国を目指して予算を割き、諸外国のビザ取得制限の緩和や、地方空港への国際チャーター便に対する支援などを推し進めた。
その結果、東京五輪開催が決まった13年は約1000万人だった訪日外国人数が、18年には3000万人を突破。これは政府が当初、30年に実現目標としていた数字だ。増加の要因には格安航空会社の普及も含まれるが、外国人観光客を受け入れる現場の努力に下支えされてこそのものだ。
「観光業における経済効果の面で安心安全な大会を成功できるなら、五輪はやるに越したことはない。感染者を出さず可能な限り大会を盛り上げて『コロナ禍でもできるメガイベントのモデルケース』となれば、世界に向けた大きな宣伝につながるからです」(前出の専門家)
とはいえ、森前会長の言った「コロナがどういう形でも必ずやる」では、「安心安全」という大会運営の根幹が崩れかねない。五輪を強行開催し、選手たちから感染者が出たら、あるいは、開催後にコロナ感染者が増加したら国民感情はどうなるか。五輪が直接的な原因かは別として「やっぱり外国人が来たから」と思うはずだ。この専門家はそこから引き起こされる最悪のシナリオを憂慮している。
「インバウンド振興が潰れかねません。先ほど、『五輪後の努力も大事』と言いましたが、コロナ禍がひどくなった状況下で政府や都が観光事業を推し進めようとしても、骨組みである民意や現場の協力は得にくくなる。負のレガシーだけが残って観光立国の計画が停滞し、インバウンドの土壌が激減したら、本末転倒です。中長期的に見たら(五輪中止で試算される)4.5兆円よりもはるかに大きな経済損失を招く可能性があります。そもそも4.5兆円にしても、マクロ経済の視点で見ると、それほど大きな金額ではありません。『開催しないと日本崩壊』という論調も耳にしますが、まやかしです。損をする業界はごく限られています。コロナや経済などさまざまな側面がありますが、正直、今年は無理に開催しなくても……。どうしてもやるなら、無観客ですかね」
前出の谷口氏は「現状、外国では感染が拡大している地域もありますし、ワクチン確保の問題ひとつを取っても国同士の貧富の差が可視化されている。それなのに『自国だけ良ければ』と開催するのは身勝手すぎる考え方ではないでしょうか。五輪の存在意義ともかけ離れてしまう」と危惧する。
アスリートや目先の利益のためだけに大きなリスクを負う必要があるとは思えないのだ。