「日本の人魚伝説」髙橋大輔著
「日本の人魚伝説」髙橋大輔著
人魚といえばディズニー映画の「リトル・マーメイド」など、上半身が乙女、下半身は魚の姿をした可憐な海の精を思い浮かべる人がほとんどだろう。しかし、日本で紹介された「人魚」は、体全体は鱗のような斑点で覆われ、魚身から人間の顔と手足が延びる“怪物”だった。1999年、秋田県にある鎌倉時代の洲崎遺跡で発見された木片に“人魚”が描かれていたのが、調査報告書によるとアザラシやアシカなど鰭脚類だった可能性が記されていた。
人魚木簡の取材をしていた著者は、数年後、福井県小浜市に伝わる「八百比丘尼」伝説に人魚が関係していることを知る。若狭湾に臨む小浜で人魚の肉を食べた少女が、800年生きたというのだ。一体、人魚とは何なのか。好奇心をくすぐられた著者は人魚伝説を追って日本全国を巡る。
日本で最初の人魚の記録は「日本書紀」にあり、そのミイラが和歌山県の西光寺に収められていること。聖徳太子が人魚と出会ったという言い伝え、さらに琉球王朝においてはジュゴンの肉が不老不死の霊薬として認められていたこと。やがて著者は出雲大社の祭祀にたどり着き、八百比丘尼伝説との共通点から少女が食べた人魚はニホンアシカだったと結論付ける。
現地取材と史料から精査し、「日本の人魚」の正体に迫ったノンフィクションだ。
(草思社 2090円)