「傷の声 絡まった糸をほどこうとした人の物語」齋藤塔子著/医学書院(選者:中川淳一郎)
SOSの声を聞き逃さないために必読の書
「傷の声 絡まった糸をほどこうとした人の物語」齋藤塔子著/医学書院(選者:中川淳一郎)
自傷行為やオーバードーズ、拒食症、過食嘔吐、スクールカウンセラー、DV、家庭に居場所がない、家庭内別居、家に帰ってこなくなった兄、とにかく死にたい。このようなことが最初から最後まで続く本で、気持ちが落ち込む読者もいることだろう。
著者は2024年5月8日逝去、享年26。両親と兄と過ごした著者は15歳の頃から精神的不調に苛まれ、さまざまな救いを求めるも絶望の連続となる様子が描かれる。
時に自分のことを理解している人との出会いがあり感謝するシーンもあるが、基本的にそのパートは少なく、精神的な不調を持つ者の辛さがいかに社会から理解されないかが基本内容である。自らを救うために腕に剃刀を入れて切ることも、多くの人は理解不能だろう。リストカットをする人のことを「構ってちゃん」などと呼ぶことが象徴的だ。
著者がまず絶望的な気持ちになったのは中学時代、親友に「死にたい」という本気の相談をし、本気のSOSを出した時だ。
〈親友から返ってきた言葉は、「反抗期なんじゃない? 私もそういう時期あったよ~」というものだった。私は膝から崩れ落ちるような思いがした〉
一緒に過ごした時間は長く、相互理解もあり、最も距離が近い理解者である友人に何も伝わらなかったことに、ショックを受け、ここからはもう二度と誰かに相談しない、と決める。精神科の医師も薬を出すだけだったりと、彼女の苦悩に寄り添わないケースも次々と登場する。
本書執筆にあたり、母と兄に会いに行き、当時何を考えていたのかを聞きに行き、自身に不調をもたらした家族の実情を探っていく。しかし、これも彼女を混乱させることとなる。著者にとっては「悪人」だった父親を兄は「厳しい父親の範疇」だったと捉えていたのだ。自分が勝手に父親を悪魔化していたのではないかとの迷いも出てきて彼女はますます絶望の淵に入っていく。
本書は発売からすぐに大いに話題となった。精神的に傷ついた人がいかに苦しいか、さらには周囲の無理解でさらに死にたくなるか、といった生々しい話に共感する人も多かった。
実際、家族や配偶者が自殺をしない限り、精神的な不調を持たぬ者は深刻さに気付きにくい。「あれはSOSのサインだったのか……」「もっと話を聞いてあげればよかった……」と亡くなってから後悔するのだ。
人生がキツい当事者にとっては救いになる内容だろうが、不調を訴える人に「そんなの気のせいだよ~」などと気軽に言う人こそ読むべきだ。 ★★半