「死を祀るコレクション」ポール・ガンビーノ著 伊泉龍一訳・監修
「死を祀るコレクション」ポール・ガンビーノ著 伊泉龍一訳・監修
招かれた家に、かつて死刑に用いられた「年代物の電気椅子」が装飾品として据えられていたら……想像するだけで鳥肌が立ってきそうだが、そんな家が実際にあるという。
本書は、ゴシック・サブカルチャーの美学に魅了された人々の自宅を紹介する写真集。
年代物の電気椅子があるのは、オーストラリア在住のアーティスト、アンドルー・ディレイニー氏の自宅。工業地帯にあり、百貨店の倉庫にはじまり、ショップや音楽学校、ゲーマーのためのスペースなど、150年の間にさまざまな使われ方をしてきたこの建物を、氏は2014年に所有権を得てから手を入れ続けてきた。
室内は、「風変わりで好奇心をそそるものを好み……不気味であればあるほどいい」という氏のお眼鏡にかなった品々で埋め尽くされる。
キッチンのカウンターの上は、フラスコなど実験室を思わせるガラス製品が所狭しと置かれ、まるでマッドサイエンティストの部屋のようだ。部屋のあちらこちらに置かれた古い複製の頭蓋骨が不気味さをさらに演出する。
建物の中央に位置するシーシャ(水たばこ)・ラウンジはアラビアをモチーフにした空間となっており、いくつものランプが天井から吊り下がり、ラブ・シートの上では氏がサラメと呼ぶエドワード時代の女性像が妖しく横たわる。
しかし、そんなことで驚いていてはいけない。
アメリカ・オハイオ州のブリジット・ジョンソンとデイヴ・モスカート夫妻は教会を所有。そのエンチャンテッド教会の一室には、ロージーと名付けた本物の女性の骸骨が棺に入って横たわり、ステンドグラスを通してふりそそぐ陽光の中で静かに眠っている。
プロの収集家である妻のブリジットは、死者の霊に対する特別な感受性を持っており、彼女のもとには年代物の肖像画が自然と集まってくる。壁には居場所を見つけたそうした肖像画や、何百年もの時を経た、さまざまな意匠の何百もの十字架が飾られている。
ほかにも、自ら製作した巨大なタコの足をモチーフにしたシャンデリアが印象的で、海中にいるような気分になるジュール・ヴェルヌ(「海底二万里」の作者)の名を冠した部屋や、カラスの剥製が舞う寝室などがあるアメリカ・ペンシルベニア州のアダム・ウォラキャーヴェイジ氏の邸宅、猛獣から小動物までおびただしい数の動物の剥製や南の島の先住民の儀式に用いる仮面などのアンティークで埋め尽くされた500年近く前に建てられたチューダー様式の家に暮らすイングランドのマッキンリー夫妻の博物館のような家など、15の邸宅を紹介。
各人の美意識にかなった品々に埋め尽くされ、どこからともなく死の気配が漂ってくる、それぞれの部屋を眺めていると、異世界に放り込まれたような気分になってくる。
(グラフィック社 3190円)