糸原健斗は“ヤクザ監督”野々村直通氏の寵愛を受けた寡黙な小兵
野々村監督は糸原に特別な思い入れがあったという。1年時の夏、甲子園メンバーに入っていなかった糸原を“特例”で聖地に同行させたことがある。これは「特定の部員を特別扱いしないこと」をポリシーにする野々村監督にとって初めてのことだった。
「現地の雰囲気に慣れさせて、経験を積ませたかったんです。よく見ておけよ、と。のちに成人した糸原とお酒を飲んでいたら『1年は僕だけ。洗濯などの雑用で、夜は2時、3時まで眠れず、キツかった』と言われてしまいました(笑い)。本人にはありがた迷惑だったかもしれませんね……」(野々村監督)
けれども、野々村監督は糸原がプロに行けるとは思っていなかった。背は175センチと小柄で、走力も打撃もズバぬけていたわけではなかったからだ。
「ただ、試合に懸ける執念はすごかった。凡退すると悔しさをにじませながら、すかさずベンチ裏で素振りをしていたのを覚えています。練習も一生懸命なので、内心では『大学止まりかな』と思いつつも、何か力になってやりたいと思わせるような子だった。だから、糸原が1年の秋だったかな。解説者だった日本ハムの栗山英樹現監督が甲子園特集のテレビ番組の取材でウチの学校に来た時があった。そこで、175センチの栗山監督に『背が低くても、プロで活躍できるぞと励ましてやってくれ』と頼んだんです。糸原があの時に何かを得ていたらいいですね」(野々村監督)