JFL2位と大健闘! ブリオベッカ浦安・都並敏史監督の「マイ・フットボール・ライフ」
青森戦敗退の後に選手たちに謝った
――シーズン序盤で悔いの残る試合は?
「4月30日に0-1で敗れた第7節・ラインメール青森戦です。明らかな采配ミスで試合を落としてしまい、もう監督を辞めようと思ったくらいです。スコアレスで迎えた後半41分、青森にフリーキックが与えられました。実は、左サイドから何度も何度も攻め立てられ、修正しようと思って交代選手を用意していたのですが、セオリー通りにフリーキックを蹴った後ではなく、蹴る前に投入してしまったのです。交代選手は練習で決められていた<壁の立ち位置>をきちんと守れず、そこを突かれてゴールを決められてしまった。交代選手は、下部組織でプレーしていた中学2年の時から見てきた生え抜きです。努力に努力を重ねて成長した選手でもあり、温情派の自分に『チャンスを与えてやりたい』という意識があったことは否定できません。勝負に徹しきれなかったことを反省し、試合後は選手たちに『申し訳なかった』と謝りました」
――勝ち負けによっても違うでしょうが、試合後には、どんな形で選手たちとコミュニケーションを取るのでしょうか?
「これは南米サッカー流なんですが、基本的に負け試合後はこちらからは何も言いません。敢えて何も言わないことで選手たちに『監督、怒っているに違いない。今、何を考えているのか、不安だな……』と緊張感を植え付けるためです。逆に試合前に何を喋るのか、とても大事にしています。内容は、何よりも選手の気持ちが、良い意味で高ぶっていくことを考えています。恐らくは世界で一番、試合前に戦術的な話をしない監督だと思っています」
――そもそも大の勉強家で「戦術オタク」を自認する都並監督ですが……。
「強靭なメンタルの持ち主じゃない限り、試合前に戦術を叩き込まれると<ロボット化>してしまいます。柔軟な判断力が追いやられ、言われたことだけに反応してしまうのです。これは横浜FCの監督時代に学んだことです」
■横浜FC監督時代にカズの言葉に愕然とした
――その横浜FCで指揮を執っていた時、読売クラブ時代からの後輩・三浦カズ選手がいました。
「週末の試合と試合の間の週半ばのミーティングでは、いつも戦術をことを細かく説明していたのですが、ある日、カズが怖い表情で自分をにらんでいるように見えました。あとで理由を聞いてみようと思い、ミィーティング後に『オレって何か変なこと、言ってる?』と聞くと、カズが首を横に振りながら『とんでもない』と前置きしながら説明してくれました。『都並さんの守備に対するきめ細かさは、本当に勉強になるので一生懸念に聞いて学ぼうとしているのですが、あまりにも細か過ぎてよく分からないところがあります』と言うではありませんか。経験値の高いカズでも分からない戦術を伝えようとしていたのか、と愕然としてしまいました」
「そして『ひとつだけ、お願いしていいですか』とカズが言ってきました。試合の前日練習の最後にフットバレーやミニゲームをやり、リラックスして翌日の試合に臨むのですが、慎重派の自分は、それからボールを手でパスしながら、戦術の再確認をやってしまうことがありました。カズは『リラックスゲームの後の戦術確認練習は止めて下さい。あのボール回しをすると自宅に帰った後も戦術のことばかり考えてしまい、試合日の朝、起きても体が動かなくなるんですよ』と言ってくれました。それからリラックスゲームの後の戦術確認練習は止めました」
――「まずは守備から」の戦術に対して、攻撃系の選手から不平不満は出ませんでしたか?
「テレビの解説などでも<得失点差がマイナスのチームに未来はない>とよく話すのですが、守れないチームでシーズンを通して安定して戦うのは厳しい――という考え方がベースにあり、選手たちには<チーム全員で守って良い形でボールを奪えば良い攻撃に繋がる>ということを1年中、伝えています。チームに守備をしないFWはいませんが、どうしても不得手な選手もいます。J2の監督時代に感じましたが、Jの選手というのはプライドがありますから、いろいろな思いを臆せずに言ってくることが一般的です。でもJFLや関東リーグの選手は大人し過ぎます。どんどん意見を言いに来てもらって全然OKです。浦安の選手にも『交代させられて腹立ち紛れにスポンサーボードを蹴飛ばしたり、ファンに悪態をついてクビになったりした選手はたくさんいる。それは絶対にやってはいけない。文句があるならオレに直接言いなさい』と言い続けています」