フェンシング見延和靖「だからこそまた一歩を踏み出せた」…“道”を悟った101歳からの金言
そんなとき、もう一度険しい道を自ら選んで歩もうと思えるきっかけとなった方との出会いがありました。そのひとりが東京五輪の翌年2022年10月ごろにお会いした裏千家の元家元、千玄室さんです。たまたまコーチの中に裏千家で働いていた方がいて、東京の今日庵という市ケ谷にある道場でお会いしました。お話ししたのは1、2時間でしたが、101歳とは思えない大きなエネルギーを感じましたね。
東京五輪で金メダルを取り、世界ランキングも1位になった。目に見える目標は成し遂げたが、自分に満足していない。まだ引退するつもりはないけど、またここから同じ道を歩むのかと思ったら次の一歩が踏み出せない。自分の中でもどかしさがあるのですが、どうすべきでしょうか……という、抽象的な質問をぶつけたんです。すると「大層な悩みですね」と。
「大きな岩があってそこに枯れた木が1本生えてます。でもその木にも花を咲かせなければいけません」と言われたんです。
■プレースタイルを大きく変える
そのときは「なるほど」と言いましたが、正直「?」でした。しばらく考えて、導き出した僕なりの解釈は「畑や山に木が生えるのは当たり前だけど、岩に枯れた木が生えているのは普通ではない。どんな環境、状況でも木は植物として生まれたからには花を咲かすという仕事がある。金メダルを取ったから偉いわけでもなく、これまでやってきた通り、また花を咲かせないといけない。頂点にたどり着いたからといって、そこで道が終わるわけではない。そこで歩みを止めるという考え自体がおかしいのではないか」と。「道」というのはきっとそういうことだと思いました。