「義貞の旗」安部龍太郎著
時は鎌倉末期、将軍と御家人の忠義で守られてきた支配体制に貨幣経済が入り込み、賄賂政治が横行。武士でありながら困窮のあまり悪党となって略奪を働く者もいるほど、世の空気は荒れていた。新田氏本宗家の棟梁・新田義貞の生活も決して楽なものではなかったが、それでも私費を投じて儒教などの学僧を招き、将来の新田荘の担い手となる村の子どもたちに学び場を開放していた。
そんなある日、幕府より京都大番役を命じられ上洛の機会を得る。そこで後醍醐天皇の皇子・大塔宮護良親王と再会したのを機に、腐敗した幕政を倒し帝の親政を実現するしかないと悟り、挙兵を決意した。果たして、大義のために立ち上がった義貞の運命は……。
分倍河原の戦い、稲村ケ崎の突破による鎌倉幕府の倒幕などで名を馳せた新田義貞の生涯を描いた歴史小説。ライバル足利尊氏にばかり焦点があたりがちな南北朝時代に至るまでの波乱の時代を、義貞の視点から生き生きと描いている。
(集英社 2000円+税)