「死にゆく患者と、どう話すか」國頭英夫著
高齢化社会の次に来るといわれる、多死社会。医師や看護師などの医療関係者に限らず、死に臨む人に対してどう接していくかは、大きな課題だ。日本赤十字看護大学の授業内容をまとめたこの本は、医療現場が治療や死に対してどう考えているのかを示しており、今後、死に臨んだ人の家族や友人が医療とどう向き合うべきかのヒントになる。著者は日赤医療センターで進行がんの治療を専門とする医師で、ほぼ必ずがんで亡くなる患者に対して治療を行っている。
著者はこの本で医学の祖・ヒポクラテスの「医者には三つの武器がある。第一に言葉、第二に薬草、第三にメス」という言葉を紹介し、コミュニケーションの大切さを語っている。例えば終末期のがん患者に対しては患者に代わってその家族に対して「治療がうまくいかないのは、患者のせいでも、医師のせいでも、家族のせいでもなく、病気のせいで残念ながら仕方がないのだ」と言って聞かせることの重要性を説いている。
身内の死は残される家族の日頃の振る舞いに問題があったせいではないか、と自分を責める人がいる。しかし、そうではない、ということと、医学的状況では無理だが、ソーシャルワーカーなどを通じて社会的状況で助けられることがあることを患者に伝えていくことで、死にゆく者の不安を取り除くことを教えている。
さらに、積極的治療が終了したことを告げる際も、そのことがイコール死ではなく、やることがたくさんあること、医師は担当であり続け、親子間と一緒で、決して見捨てはしないことを伝える必要があるという。興味深いのは、医療者と患者には恋愛関係に似た感情が起き、医療者が燃え尽きてしまったり、医療者と患者が結婚したり、患者がストーカーになったりすることがあるという事実に対して、医療者に向けて身の安全に対して万全の対策を取るよう伝えていること。病院でなく自宅で亡くなることが多くなる多死社会では、いまは医療関係者だけが抱えるこれらの問題が、いずれ私たち自身に降りかかってくるであろうことを知る必要がある。(医学書院 2100円+税)