半導体の復活と危機
「半導体有事」湯之上隆著
既に廃れたはずの半導体産業。ところがいまや安全保障において最重要物資となったのだ。
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「半導体有事」湯之上隆著
かつて日本の独り勝ちだった半導体産業。その後は斜陽になり、日本企業の多くが撤退した。ところが、再び日の目が当たる。直接の要因となったのはコロナ禍だ。これで世界中で半導体が不足し、スマホやパソコンはむろん、医療用機器までが製造できなくなって、半導体の重要性が急復活した。
そこに拍車をかけたのが米中対立。半導体の受託生産で、世界シェア6割のTSMC社は台湾企業。かねて台湾を狙う中国の思惑と、東アジア防衛の観点から台湾との連携強化を強める米国のにらみ合いが深刻の度を増したのである。
本書は前半で半導体産業の歴史とTSMC社の台頭を概説し、中・米・韓各国の製造業と市場を解説。第6章「日本の半導体産業はまた失敗を繰り返すのか」は業界関係者ならずとも気になるところだろう。
日立で半導体事業を長年手がけた技術者である著者は、「日本の半導体産業は挽回不能である」と直言する。先端技術は競争から一度抜けると復帰は不可能なのだ。しかし、希望を捨てるのは早い。半導体製造の部品や消耗品の分野では日本にはまだ優位と競争力を保持する面があるという。明快で具体的な好著。
(文藝春秋 1045円)
「半導体戦争」クリス・ミラー著 千葉敏生訳
「半導体戦争」クリス・ミラー著 千葉敏生訳
電気を通す導体と通さない絶縁体、その中間の性質を持つのが半導体。トランジスタなどの集積回路の総称でもある。
これが実用化されたのは第2次大戦後で、究極の機械化戦争だった大戦では、複雑化した兵器を効率的に運用するための計算が発達。真空管を使ったコンピューターが実用化された。やがてその技術は半導体の登場で小型化・高速化され、性能向上と市場の拡大で廉価になり、いまや庶民生活から最先端兵器までを左右するに至った。
グローバル化が進んだ今日、半導体の生産と調達は単にグローバル化した経済のみならず、政治外交と安全保障をも揺るがす存在になっている。
本書は経済史と地政学を踏まえ、デジタル技術と国家戦略と市場経済の絡まりあいを論じる若きアメリカ人研究者の大著。100人を超える科学者、技術者、企業経営者らへのインタビューをおこない、戦後まもなくから冷戦とベトナム戦争、ジャパン・アズ・ナンバーワン、ポスト冷戦期と続く現代史と半導体開発・製造・普及・調達の様相を生き生きと描き出す。
昔は安物の代名詞だった「メード・イン・ジャパン」を劇的に変えたソニーなど80年代の日本企業の躍進と没落には多くが割かれている。
(ダイヤモンド社 2970円)
「よくわかる半導体の動作原理」西久保靖彦著
「よくわかる半導体の動作原理」西久保靖彦著
半導体は戦略物資と化した、といわれても実はその実態をよく知らないという人は多いはず。
半導体ってなに? と子供に聞かれて答えられない大人も少なくないだろう。
本書はそんなオトーサン、オカーサンにもオススメの一冊。ごく初歩的な定義から、半導体の形状、技術集約の実態、素材、製造法、基本原理などをまとめて解説してくれる。
入門レベルとはいえ専門知識のかたまりだ。しかし、レイアウトや図版の使い方を含め、内容のレベルは高校1年の物理がわかれば大丈夫。「オレ理系じゃないから」と食わず嫌いしなければ難しくない。現代人の教養としてこの程度は知っておきたいところだろう。
(秀和システム 1980円)