「発掘された日本列島2023調査研究最前線」文化庁編
「発掘された日本列島2023調査研究最前線」文化庁編
日本には約47万2000カ所もの遺跡があり、年間約8000カ所の発掘調査が行われているという。文化庁では、その発掘調査の成果を広く紹介するため、平成7年から「発掘された日本列島」展を巡回展示〈本年度は山梨県(終了)と長崎県で開催(11月11日~)〉。本書はその書籍化だ。
発掘調査にとって大切なことは、遺跡や遺物の「新発見」だけでなく、調査の成果を積み上げ、分析することで明らかになる「発見」の方が実は多いのだという。
まずはそうした継続的な発掘調査に基づく地域研究で明らかになった「地域の個性的な歴史」や「魅力的な遺跡」を紹介。
その一つが宮城県の仙台湾周辺で多数発見されている縄文時代の貝塚だ。その数は約210カ所にも及び、縄文時代早期から晩期まで数千年にわたって貝塚が形成され続けた珍しい地域だそうだ。
中でも日本三景で有名な松島湾にある里浜貝塚では、大正7年から発掘調査が断続的に行われており、その研究成果から作成されたのが「縄文カレンダー」だという。
縄文カレンダーとは縄文晩期の暮らしを復元したもの。それによると、彼らは春はアサリを中心とした貝類を大量に採取、初夏にかけては回遊してきたマダイやマグロを獲物にした漁労と並行しての塩作り、そして秋はトチやクリ、クルミなどの堅果類の採集、冬はニホンジカやイノシシなどの哺乳類を捕ったという。
ほかにも、群馬県高崎市の「下里見天神前遺跡」や奈良市の「ウワナベ古墳」、岡山県津山市の「佐良山古墳群」など全国的にも注目された10遺跡の最新の発掘調査の成果を多くの写真や図版で解説するなど充実の内容。
日本の歴史と文化の成り立ちの物語が詰まった遺跡発掘の最前線に触れる考古学ファン必見の書。
(共同通信社 1980円)