<第19回>面白い映画ではなくいかに高倉健のいい絵を撮るか
【網走番外地(1965年・東映)】
この連載は高倉健が出演した映画をあらためて見直して書いている。そのうちに共通点に気がついた。たとえば、彼が出ている映画では初期の作品のいくつかを除いて、ストーリー重視ではない。
巨匠・内田吐夢が監督した「宮本武蔵」シリーズ、「飢餓海峡」では、見ているうちに物語の中に入り込み、次の展開が気になる。だが、初期の青春ドラマ、任侠シリーズ、その後の主演ものを通してストーリーが気になる映画はまずない。私たちが見ているのは高倉健のアクションであり、気が充実した演技だ。
おそらく監督たちが気を配ったのは、面白いストーリーの映画を撮ることではなく、いかに高倉健のいい絵を撮るかではなかったか。
そして、高倉健にいい演技をさせるために必要なのは脚本と共演者だ。物語は通俗的でもいいけれど、彼が読んで、「このシーンはいいな」というところがなくてはいけない。また、共演者は重要だ。彼が安心して演じられる相手役、彼を刺激する新たな共演者の2通りの配役が必要になってくる。