著者のコラム一覧
碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

吉田鋼太郎がバツ3役 “大人の恋愛ドラマ”は女優も魅せる

公開日: 更新日:

【連載コラム「TV見るべきものは!!」】

「東京センチメンタル」の主人公・久留里卓三は、55歳になる和菓子屋店主だ。職人としての腕はいいが、かなりの女好き、というかホレっぽい性格。離婚歴ありで、しかもバツ3。これを“平成一のモテ中年”である吉田鋼太郎(57)が演じているところが絶妙だ。

 基本的には、毎回いろんなタイプの美女にホレて、結局はフラれる。だから、つい「男はつらいよ」の寅さんを思い浮かべる人もいるだろうが、ちょっと違う。寅さんが無意識のうちに恋をしてしまう“恋愛の天才”だとすれば、卓三は自意識過剰な“恋愛の凡人”。いや、だからこそ世の男たちも共感できるのだ。

 これまでの中で、最高傑作は「新井薬師の恋」である。昔、修業をしていた老舗の和菓子屋から閉店の知らせが届く。現在の店主は先代の娘で、かつて隠れて交際していたこともある、みずほ(床嶋佳子)だ。卓三は、彼女から父親の味を再現して欲しいと頼まれる。

 卓三への思いを持ちながら、直接伝えることのできないみずほ。それを感じながらも、応えることができない卓三。互いに大人だからこそ、一度失った恋を取り戻すのは難しいんだよなあ。

 和服姿の床嶋佳子(51)が、せつなくも美しかった。また別の回では、イタリアから一時帰国したバイオリニスト役の奥貫薫(45)もよかった。旬の女優ばかりが女優ではない。
(上智大学教授・碓井広義=メディア論)

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