「一流の立ち振る舞いを」勝さんの教えで銀座通い2カ月
だが、ぜいたくをすることや、ましてや役者としての見えや外聞を誇示するためではない。
勝新の意図は別のところにあった。
「当時はまだ24歳、25歳くらいのころ。客の中で私が一番若かったし、ホステスさんは自分よりずっとお姉さんが多かった。作家の先生の常連客も多く、ホステスさんは皆さん知的でした。勝さんは、そこへ来る名だたる大企業の社長を観察しろというのです。あるいは、大物タレントがどうやって遊んでいるのか、その姿を見ろと。まあ、遊んでいるというと語弊がありますが、いわゆる一流の人たちの立ち居振る舞いを観察しなさいということです。赤ちょうちんもいいが、背を丸めて飲むと、映像に日常が出てしまうというのです」
あれから40年経った今も松平は姿勢がいい。若々しく見える理由のひとつだ。もちろん当時は“将軍”の役どころだったために銀座のクラブだが、サラリーマンのドラマに出演していたら「赤ちょうちんへ行け」というふうにアドバイスは変わっていた。勝新の真意は、日常生活も役柄に成り切れということだった。