怪談の基礎知識<上>「夏はお化けでメシを食い」
講談の世界では「冬は義士、夏はお化けでメシを食い」という。松鯉師匠も冬は赤穂義士伝、夏は怪談でトリをとることが多い。
今回は怪談の話を。寄席でおどろおどろしい怪談を聞くと、物語の怖さや登場人物の恐ろしさを実感できるが、怪談の始まりはいつ頃なのか。
「江戸の元禄と文化文政の時代に、2つの大きな文化の発展期がありました。前者は上方の町人文化、後者は江戸前の化政文化で、怪談は文化文政時代に定着しました。文化文政では徳川幕府の基礎が固まって安定したのはよかったのですが、庶民の閉塞感が強くなっていた。そこで庶民の娯楽として怪談が歓迎されたんです。あの頃が一番怪談がもてはやされたでしょうね。その伝統が今に続いているわけです」
古今東西、どんな怪談があるのか。
「『四谷怪談』『番町皿屋敷』『牡丹灯籠』が3大怪談ですな。講談では私の師匠の神田山陽がやってました。師匠が亡くなった後は私にお鉢が回ってきました。『番町皿屋敷』は私が速記本から起こしました。『牡丹灯籠』はもともと講談ではなく、噺家の三遊亭円朝師匠の作品ですね。明治時代に一世を風靡した大変有名な噺家で『真景累ケ淵』と『乳房榎』と合わせて傑作を残しました。これは歌舞伎にもなっています。私が寄席でやるのは『四谷怪談』『番町皿屋敷』『乳房榎』『小幡小平次』『雨夜の裏田圃』などです」