【前田有一 特別寄稿】ハリウッドvsトランプ 死闘の結末

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「壁」と「黒人」を描いた「ブラックパンサー」

 その最たるものが「ブラックパンサー」(18年)で、これはマーベルのアメコミ映画であると同時に黒人映画でもある。この映画の主人公ブラックパンサーは、なんと見えないバリアー=「壁」で囲んで、外部の世界から自国を守ってきた「国王」。ところが彼は、最終的にその壁を自ら取り払い、孤立主義を捨てる選択をする。米国のマイノリティーである「黒人」が「壁」を壊すこの映画は、この年の全世界のあらゆる映画の中で最大の興行収入を記録した。

 誰もが認める世界最強の発信力と影響力を持つハリウッド映画の、まさに面目躍如といったところだが、こうした「和解と多様性を尊重」する価値観の作品を広めることで、彼らは業界をあげてトランプ政権の「分断統治」に抵抗してきた。

 だが、ブッシュ時代と違ったのは、大統領側の発信力が格段に大きくなっていた点だった。トランプ氏は自分に都合の悪いメディアを「フェイクニュース」扱いして相手にせず、ツイッターで直接国民に語りかける戦略をとった。そのツイートには狂信的というべき支持者がぶら下がり、猛烈な拡散力を発揮。結果的に、新聞やテレビに勝るとも劣らない強大な発信力を「個人で」持つことになった。

■デ・ニーロは「あの脱税野郎、顔面を殴りたい」

 そんなトランプ氏に対し、セレブたちも真っ向から攻撃した。ジョニー・デップは「まるでワガママな子供だ」と皮肉り、リチャード・ギアは「彼は扇動者だ」と批判。ロバート・デ・ニーロに至っては「あの脱税野郎、顔面を殴りたい」とまで言った。

 一方のトランプ大統領も、自身の物まねをしたメリル・ストリープに「三流女優」と言い返すなど、権力者でありながら個人攻撃を繰り返した。

 このように、ハリウッドとトランプ氏の激突というのは、いわば世界最大の発信力を持つ横綱同士のガチンコ勝負、熾烈な頂上対決だった。

 結果的に、作品でも、作品の外でも連帯し、勝利を収めたのはハリウッドだったが、果たしてバイデン時代にはどうなるのか。

 少なくともバイデン氏は、トランプ大統領のようなマッドマンセオリーはとらないだろうから、セレブたちの直接的な政権批判も当面は影をひそめよう。排外・孤立主義を緩める政策をとれば、映画界も政治的な暗喩をこめない、昔のような純粋なエンタメ映画を作るようになるかもしれない。

 いずれにしても、ヘイトやデマにまみれた、分断と対立の時代が終わる契機となってもらいたいものだ。

(前田有一/映画評論家)

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