ダニエル・クレイグのボンド引退作「007」もこの世の不条理を嘆いとった
たまには映画の話も書きたいのだが、芸術の秋もたけなわというのに、この一本は見逃せないという作品がまるでないのだ。加えて、映画館にふらりと行く習慣がこの1年余りでなくなってしまったのも困ったもんだと思っている。
ジョニー・デップ主演の「MINAMATA―ミナマタ」という、熊本県の水俣病を世界に知らせた米国の写真家のユージン・スミスの伝記ドラマぐらいは見に行こうかと思っていたら、先に見た若い役者から、「地元で抗議活動をする人たち、それを力で押さえ込むチッソ工場の社員たちや取り締まる警察官の、芝居(つまり、日本人の役者らの演技)が下手くそで見ていられなくて、ジョニーのアル中演技にも集中できませんでした。ストーリーも優等生で丸く収まってた感じで……、わざわざ映画館で見る必要ないっすよ」なんて、クソ生意気な評論をぶちかまされたので、途端に気が失せてしまった。
彼が「実はもう一本、こっちなら気晴らしになるかと『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』もハシゴしたんですが……、これがまた2時間45分もありやがってダレるのなんの」と続けた。