年に一度の「顔見世」で光った“プロデューサー”猿之助の企画力
今月の歌舞伎座は年に一度の顔見世。演劇として面白いのは第三部「花競忠臣顔見勢(はなくらべぎしのかおみせ)」。題から分かるように、若手による忠臣蔵なのだが、単なる2時間のダイジェスト版ではない。松の廊下も判官の切腹も城明け渡しも、舞台の上では描かれないし、お軽と勘平も出てこない。そういう名場面とは別の、いろいろな忠臣蔵外伝をないまぜにして、討ち入りまでを描いた。
猿之助は演出も担い、高師直ら3役、幸四郎も大星ではなく、桃井若狭之助と清水大学で、主役は若手に譲り、中村歌昇が大役の大星由良之助、尾上右近が顔世御前(のちの葉泉院)と大鷲文吾、中村隼人が塩冶判官と槌谷主税。
どの役も通常の歌舞伎座ではこの世代が演じることはない大役なのでいい勉強の機会だが、演劇としても見応えのあるものに仕上げている。
このご時世にわざわざ歌舞伎座まで来る人は、忠臣蔵を何回も見ている人たちだ。普通の名場面を外しても、ストーリーは分かる。猿之助の企画力の勝利。大幹部たちは自分の芸を極めようとしていて、それはそれでいいのだが、猿之助はプロデューサーとして、客が何を望んでいるかを考えている。しかしそうなると、役者としての猿之助の出番が減るせいか、猿之助が「主役」の時より空席が多い。興行の難しさを感じる。