「ブラック郵便局」宮崎拓朗著
「ブラック郵便局」宮崎拓朗著
2018年夏、西日本新聞社会部の記者だった著者は、郵便局員たちが、はがきの販売に過剰なノルマを課され、自腹で購入している事実を記事にした。それ以来、全国の郵便局員から内部告発のメールや投書が送られてくるようになった。
お客さんを騙したことがあると告白した保険営業担当者。上司からパワハラを受けた同僚が自殺したと訴える郵便配達員。業務そっちのけで選挙運動をさせられている郵便局長もいた。
2007年、経営の効率化と質の高いサービスの提供を目指して民営化されたはずの郵便局で、何が起きているのか。現場の悲痛な叫びを聞き、地道な取材を重ね、大量の内部資料を読み込んで郵便局の闇に迫った衝撃のノンフィクション。
かつて国営だった巨大組織は民営化によって市場原理にさらされ、収益を上げるために、保険や貯金の金融事業に過度に依存するようになった。保険営業の現場では、法外なノルマを達成するために、高齢者を狙った詐欺まがいの営業が横行する。配達現場はコストカットを求められ、無理な時短を強いられた。経営幹部は現実を無視した机上の目標を現場に押し付ける。会議や研修の場で時代錯誤の精神論を振りかざし、局員に罵声を浴びせる。心を病む局員が続出するのも無理はない。
郵政グループの幹部には旧郵政省出身の元官僚が多く、役所体質が抜け切らない。疑惑を報じてもなかなか非を認めず、詭弁で言い逃れる。監督する政府も本気で介入しようとはしない。取材を重ねるうちに、その背景に郵便局長たちと政権与党の癒着の構図も見えてきた。約1万9000の小規模郵便局の中には赤字局も少なくない。局長たちは統廃合に反発、既得権を守ろうと政権与党にすがり、不正な手段もいとわず組織票集めに奔走する。これでは局員は疲弊するばかりだ。
著者は、放っておけば組織の闇にのみ込まれてしまう現場の叫びを丁寧にすくい上げ、民営化後の郵便局の裏側を明るみに出した。粘り強い調査報道には人と社会を動かす力がある。本作が郵政グループ変革のきっかけとなることを願わずにはいられない。 (新潮社 1760円)