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松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

天童よしみさん「NHK紅白出場」に心から安堵、あのタイムレスな歌声の偉大さよ

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■あたたかい人間性

 天童よしみが長い芸能活動で確立したキャラクターを一言で表すと「あたたかい人間性」。さらに、美空ひばり以来の天才と称される卓越した歌唱力という絶対的強みもある。50周年プロジェクトの総指揮を務める作編曲家・本間昭光さんから作詞を依頼されたとき、演歌とは畑違いのぼくでも断る理由はなかった。

 天童さんと本間さんは大阪・八尾の小中学校の先輩後輩で、ご近所同士の間柄という。それを知るにおよび「故郷のあたたかさ」という詞の構想がまず浮かんだ。次に、天童よしみだからこそ表現できる歌の世界を考えた。昔ながらの人情や情愛を懐古的に描けば、きっと大きな失敗はなかろう。だがそれだといかにも予定調和。もっと攻めたい。あのタイムレスな歌声があれば、社会という壁をタイムリーにうがつことだってできるはずだ。

 現代社会が抱える最も新しく最も大きな問題は何か。そのひとつにぼくはロシア・ウクライナ戦争を挙げたい。戦争の最大の悪はもちろん人命を奪うことだが、故郷が失われるのもまた大きな悪である。戦闘激化でウクライナを脱出する人びとの映像を今年どれだけ見たことか。人生には思いがけぬ理由で故郷を喪失してしまう瞬間が訪れるものだ。天災、病気、事故、失職、絶縁、そして戦争。軍靴の響きが聞こえる錯覚に襲われることはこの国でも増えてきた。そう感じるのはぼくだけではあるまい。

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