トップスター・荒木一郎は大きすぎる犠牲を払いながら「なりゆき」を謳歌した
トップスターの記憶はほとんどないが…
60年代の終わりに生まれた自分には、トップスター荒木一郎の記憶はほとんどない。桃井かおり・緒形拳・八千草薫というキャストが魅力的だったドラマ『ちょっとマイウェイ』(79~80年)の主題歌「夜明けのマイウェイ」の作者、それが最初の接点。当時桃井のマネージャーでもあったことや、それ以前にマスコミを賑わせた醜聞の数々は後になって知った。
じつはぼくは著者と同じ映画に出演したことがある。大鶴義丹監督の95年作品『となりのボブ・マーリィ』がそれで、やや唐突に荒木の手品シーンが挿入されていた。30年近く経った現在、あれも誰かに求められてのものだったかとようやく合点がいった。
この稀有な私小説は、異性にモテることに大きな価値があった時代、そして多岐にわたる才能がカネを生む曲芸を意味した時代への挽歌だ。ぼくはハリウッドの風雲児ロバート・エヴァンスの自伝『くたばれ!ハリウッド』を思いだした。エヴァンス同様、荒木一郎もときに大きすぎる犠牲を払いながら「なりゆき」を真摯に謳歌してきたのである。