93歳「現役日本最高齢の大道芸人」ギリヤーク尼ヶ崎はなぜ路上に立ち続けるのか
舞踊家で大道芸人、生きる伝説は今年93歳。病を抱えても車椅子で路上に立つ。その生きざまをフォトジャーナリストの薄井崇友氏がリポートする。
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「ギリヤーク! よー、日本一~待ってました!」
心臓にペースメーカーが入り、パーキンソン病、脊柱管狭窄症などを抱えながら路上で踊り続ける93歳「伝説の大道芸人」ギリヤーク尼ヶ崎。東京・新宿の三井ビル前、10月9日午後、「青空舞踊公演55周年記念公演」を開催した。
■老いと病を受け入れ精いっぱい舞う「魂の踊り」
冷たい雨の中、会場にはギリヤークさんの“魂の踊り”を見ようと、200人近い熱狂的ファンらが詰めかけた。高橋竹山風の三味線の音色が流れると拍手が湧き、その音にのって三味線を持つギリヤークさんが車椅子姿で登場。会場に歓声が高らかに上がった。
この広場は毎年秋に演じてきたホームグラウンド。コロナ禍で中止が余儀なくされ、ここでは4年ぶりだ。あいにくの雨の中なのに開演の1時間前から人々が集まり始め、次第に熱気を帯びる。「やっぱりギリヤークさんはこの場所がいい」という声も漏れ聞こえた。全盛期から舞う姿を見続けてきたファンにとっても特別な場所なのだ。
車椅子姿で踊る姿も魅せるものがある。足腰が不自由でも、顔や手・腕を自在に動かし表現。車椅子を押す黒子の動きもドンピシャ。押しては引き、ターンさせ、ギリヤーク尼ヶ崎になりきって踊り・演出する。
ギリヤークさんが赤い薔薇をくわえると会場が沸いた。「よされ節」の前振りだ。この人気演目ではステージに観衆もあがり、ギリヤークさんの手をとりながら支えて一緒に踊った。
大きな数珠を振り回す「念仏じょんがら」では、広場を見下ろす歩道にあがり、強まる雨脚の中、激しいパフォーマンスに大喝采。黒子の支えで階段を下り精根尽きてステージで座り込み、母の小さな写真を掲げ「踊ったよ! おかあさ~ん」と叫ぶクライマックスでは「待ってました!」の合いの手が決まり文句。そして最後はバケツの水かぶりだ。
観衆はこの一連を全て知っていて、分かっている演技を演じ切るギリヤークさんに沸くのだ。