『ティル』がいよいよ公開…米国の残酷すぎる史実が劇映画化される意義と意味
今週末12月15日(金)、『ティル』がいよいよ劇場公開される。1955年に米国南部で実際に起きた、14歳の黒人少年が壮絶なリンチを受けて殺害された事件と、その後に彼の母親がとった勇気ある行動を丹念に描く劇映画。タイトルはこの母子の姓から。
事件を説明しよう。1955年8月、中西部の大都市シカゴ育ちの黒人少年エメットは、強い黒人差別がはびこる南部ミシシッピ州の親戚宅で休暇を過ごしていた。現地の友人たちと連れだって白人男性が営む食料雑貨店を訪れた彼は、店主の妻である21歳の白人女性に向かって口笛を吹く。あとでこの振る舞いを知った店主とその兄弟は腹を立て、エメットを拉致してリンチを加える。眼球をえぐり出し、頭を割って銃で撃ち抜き、その死体を川に捨てた。錘として30キロ強の回転式綿搾り機を有刺鉄線で首に縛りつけて。死体は3日後に川で発見されて引き揚げられた。
人種隔離制度が残る時代にあっても、ありえないほど重すぎる「不敬罪」だった。エメットの母親メイミーは、リンチの残忍性を広く知らしめるために、大胆にも棺の扉を開けたまま葬儀を行った。この行動はセンセーションを巻き起こし、新聞や黒人雑誌は変わり果てたエメットの遺体写真を掲載、事件は大きなニュースになる。だが起訴された店主らふたりは、全員白人の陪審団によって無罪が確定。彼らのリンチは、好ましくない振る舞いをした黒人少年への「懲罰」であり「殺人」ではないとされた。しかし後になって雑誌の取材に応えた彼らは、自分たちが行った残忍きわまりないリンチを詳細に告白したのだった。
メイミーはNAACP(全米黒人地位向上協会)の一員として、事件と裁判について粘り強く全米で講演活動を続けた。映画はこの部分の描写に重きを置いている印象がある。「母の愛」という言葉で表すことができるかもしれない。メイミーとその仲間たちの努力の甲斐あって、結果、この事件は公民権運動を大きく前進させる役割を担う。