著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

妻の実家の居間の壁に飾られた見慣れない刺繍絵をめぐるエピソード

公開日: 更新日:

「お母さん、ご無沙汰している間にこんなに腕を上げられて」しばらく会わぬうちに背中がいくぶん丸くなった義母は、はじめ怪訝そうな表情だったが、ぼくの言う意味がわかるや人懐こい笑顔を浮かべた。彼女が語るこの刺繍絵が居間に飾られるまでの経緯は、次のようなものである。

 義母には長い付きあいのある時計屋の夫婦がいる。もう80代かな、と彼女は言う。今日びの地方都市で時計屋といえば、デパートやモールに入る店を除けば、マニアや富裕層向けに高級腕時計やビンテージウォッチの品ぞろえを充実させた店か、修理や電池交換の小さな利ざやで細々と経営を続ける昔ながらの個人商店に大別できるだろう。義母のいう時計屋は後者である。

 付きあいは40年ほどになるが、大きな買い物は一度もしたことがないし、私的な時間を共にしたこともない。腕時計の電池が切れたり、眼鏡のフレームに不調があったりした時に、予約もなしに店を訪ねては対応を施してもらうだけの関係。それでも同じ街に住んでいるから、夫婦の仲が円満なこと、3人の子が成人して巣立ったこと、そして妻がかつて大病を患ったことを知っている。病歴については街の誰もが知るわけではない。なぜ義母が知っているかというと、彼女もまた同じ病気と闘った過去をもつからだ。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動