楳図かずおさんが死の2年半前に訴えていた思い…今の漫画界を「商業主義」と苦言も
今の漫画は「アニメの台本」
──以前「少年漫画、少女漫画をずっと大事にしてきた漫画家は僕だけ」と語っていました。新作もある意味、少年と少女が主人公のお話です。
子供が主役だと、物語の振り幅が違う。大人だけの物語よりも自由です。例えば大人が主役だと「東京タワーのテッペンまで登ろう」なんて発想は絶対に出てこない。常識に縛られてバカげたところに物語が進まず、つまらなくなる。「子供ならでは」が僕の作品の基本。もともと、自身の漫画に対し、最初に決めたのは戦争、貧困、病気、あと恋愛は描かないこと。それをやったら芸術ではないような気がしたので。で、残ったのが「怖い」でした。
──それが恐怖漫画に至った理由ですか。
ホラーの良い部分は「あり得ない」ということ。芸術も同じで「あり得ない」。芸術は怖いかどうか分からないだけで、ホラーと共通している。あと、ホラーとギャグも紙一重です。違いは怖いか笑えるかだけ。「あり得ない」は共通しています。
──なるほど。
漫画を描き続けているうちに“ご法度”も作品に取り入れるようになりましたけど、どれも頭に「変な」がつく。「変な戦争」「変な恋愛」ならオッケーなんです。
──代名詞「グワシッ!!」のフレーズはどう思いついたのですか。
言葉の勢いで、いきなり下りてきました。モノを力強く「グワシ」と掴むイメージかな。迷いはなかったですね~。
──現在の肩書は?
「大芸術家」がいいです。芸術家だと普通でしょ。「大」をつけると、ちょっとバカバカしくなるけど、でも実際やっていることは真面目でキチンとしている。そういうバランスがいいなと思っています。
──新作には「手描き」のこだわりを感じますが、現在の漫画界は「デジタル作画」が主流になっています。
それ! 僕が漫画を離れた原因のひとつです。昔、ペン先につけていた開明墨汁を買おうにも、もう店に置いてないんですよ。店員さんに薦められたインクを使って描くと、紙が剥がれちゃう。僕はペンタッチの強弱で立体感をつけ、肉質感を出すやり方でしたけど、今の漫画はペンタッチが一本調子で生命感が全くない。やっぱり漫画は手描きの温かみ、血が通っている作品になっていないと。今の漫画界は芸術性よりも商業主義に傾いている気がします。これも「退化」の問題で、あまりにも機械に頼り過ぎると、機械がなくなった瞬間に漫画が描けなくなってしまいます。
──あまり好ましい現状ではなさそうですね。
今の漫画はアニメの台本になっちゃっていて、漫画自体よりもアニメが評価されているだけです。子供が読む漫画もバトルものばかりで、物語の世界が狭すぎると思う。戦いとは結局、行動だけを描くから、子供にとって少し引っかかる深い考えや思想的なモノがなくなってきています。そんなことを思いつつ、新作は子供向けにも描いたつもりです。今の大美術展を今度はぜひ、子供客限定で開きたい。
──漫画の創作から離れていても、漫画への情熱を感じます。
漫画が好きですからね。漫画が成り立つ国はとても良い国なんです。漫画作品の多くは普遍的な正義感などが盛り込まれていますが、その価値を共有できない国では話が通じません。政治や宗教などひとつのストーリーに支配されていれば、漫画のストーリーが入り込む余地はない。だから、僕は漫画を大事にしたいし、皆さんにも「漫画のある国は素晴らしい」と思って、大切にしてもらえればうれしいです。
(聞き手=今泉恵孝/日刊ゲンダイ)
▽楳図かずお(うめず・かずお) 1936年、和歌山県高野山に生まれ、奈良県で育つ。18歳の時、「森の兄妹」でプロデビュー。恐怖漫画家として知られるようになる。「漂流教室」ほかで小学館漫画賞を受賞。「グワシッ!!」が社会現象となった「まことちゃん」など数多くのヒット作を生み、「わたしは真悟」「14歳」など近未来を描いた大作を発表。2018年に仏アングレーム国際漫画祭「遺産賞」受賞。同年度、文化庁長官表彰受賞。2022年、27年ぶりの新作となる「ZOKU-SHINGO」を発表。2024年10月28日に死去。