「いつまでも 生きている気の 顔ばかり…」人間はそれでいいんだ
Rさんが入院した病室は4人部屋で、全員が肺がんの男性患者でした。隣のベッドのFさんは30代の独身で、トイレに行くときも酸素吸入が欠かせず、緩和ケア病棟(ホスピス)が空くのを待っているとのことでした。
向かい側のMさんは50代で、標準治療が効かなくなり、新しい抗がん剤の治験を受けることになった方でした。入り口付近のKさんは70代で、再発した肺の再手術が決まり、外科転科を待っているといいます。
普段は間仕切りのカーテンを閉めたままで、ほとんど会話することもありません。しかし、食事の時は4人ともカーテンを開けて雑談しました。いまの日本の政治について、アメリカの大統領について、野球のこと、相撲のこと……話題は多岐に及びました。
一番若いFさんは、最も深刻な病状でしたが、医師や看護師のあだ名をつけるのが上手でした。「A先生、あれは『老人パンダ』ですね」「E看護師は『ウルトラウーマン』かな?」……そんな軽いジョークで病室の雰囲気が明るくなりました。ただ、一度だけこんな場面を目撃したそうです。母親が見舞いに来た時、面談室からFさんが真っ赤な目にハンカチをあてながら戻ってきたのです。みんな気づいていましたが、黙ったままだったといいます。