「いつまでも 生きている気の 顔ばかり…」人間はそれでいいんだ
みな、本心ではどう思っているのかは分かりません。しかし、その時以外は不思議に暗い表情は見られず、先行きの悪い話はほとんどしませんでした。
■来春までもたないかもという患者が…
Rさんは、入院する際に持参したポータブルCDプレーヤーとイヤホンで、禅学者・鈴木大拙の講演集をよく聴いていました。
「川柳に『いつまでも 生きている気の 顔ばかり』というのがあります。かわいそうに、あした死ぬかも知れないのに……と思って作ったものと思いますが、いや、私はそれでいいのだと思う。いつまでも生きている気の顔ばかり、それでいいのだ」
そんな言葉が印象的だったといいます。
入院で白血球数が回復したRさんは、同室の3人の患者さんたちよりも先に退院することになりました。
「このまま家に帰れないかもしれないと思ったのに、本当によかった。それにしても、同室のみんなも大変だな。よく、じっと我慢してベッドに寝ていられるものだ。でも、そうするしかないものな。やっぱり、覚悟ができているのだろうか」