「チャーリーとの旅」ジョン・スタインベック著 青山南訳

公開日: 更新日:

「チャーリーとの旅」ジョン・スタインベック著 青山南訳

 トランプ米大統領は2度目の就任直後から多くの大統領令に署名し、「アメリカ・ファースト」を強く打ち出した。しかし、トランプあるいは彼を支持する人たちの「アメリカ」とはどういう国なのだろうか。「怒りの葡萄」や「エデンの東」で名実ともにアメリカを代表する作家スタインベックは、1960年秋、ケネディ対ニクソンの大統領選直前に、アメリカの作家として「自分の国を知らない」「この国を肌身で感じとってこなかった」ことに気づき、アメリカを「再発見」すべく全米を回る旅に出た。御年58歳。

 旅の相棒は、フランス育ちのスタンダードプードルのチャーリー、10歳。キャンピングカー仕様の0.5トンのピックアップトラックの「ロシナンテ」にショットガン、ライフル、釣り竿などを積み込んで、ロングアイランドのサグハーバーの自宅を出発。フェリーでコネティカット州へ渡り、メーン州に向かって北上する。

 行く先々でいろいろな人と会って話をするが、その際にチャーリーが架け橋となって見知らぬ人との会話も滞りなく進む。おまけに良き話し相手としてときに助言(?)もしてくれる。

 メーン州から大陸を西へ横断、シアトルから太平洋岸を南下、生まれ故郷のカリフォルニア州サリーナスから東進、南部諸州を巡ってニューオーリンズから北上……。この長い旅を通じて出会った人たちは性格も職業も違うが、それぞれが「アメリカ人」だと感じることができた。

 しかし、そこに共通したイメージは何かと問われると旅の前よりも「わからなくなってきた」と吐露する。旅の終わりの方で遭遇した南部の激しい黒人差別に接しながら、その現実を見なければいけない、耳を傾けなくてはいけないと思う。なぜならその痛みはアメリカ全身に広がっているからだ、と。60年以上経った現在、「アメリカ」はどう変わったのだろうか。 〈狸〉

(岩波書店 1364円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  2. 2

    人事局付に異動して2週間…中居正広問題の“キーマン”フジテレビ元編成幹部A氏は今どこで何を?

  3. 3

    巨人今季3度目の同一カード3連敗…次第に強まる二岡ヘッドへの風当たり

  4. 4

    テレビでは流れないが…埼玉県八潮市陥没事故 74歳ドライバーの日常と素顔と家庭

  5. 5

    菊乃井・村田吉弘さんが日本食の高級化に苦言…「予約が取れない店がもてはやされるのはおかしい」

  1. 6

    フジテレビを襲う「女子アナ大流出」の危機…年収減やイメージ悪化でせっせとフリー転身画策

  2. 7

    TV復帰がなくなった松本人志 “出演休止中”番組の運命は…終了しそうなのは3つか?

  3. 8

    "日枝案件"木村拓哉主演「教場 劇場版」どうなる? 演者もロケ地も難航中でも"鶴の一声"でGo!

  4. 9

    【埼玉・八潮市道路陥没「2次被害」現場ルポ】発生2週間、水は濁り死んだ魚が…下水放流地で見た河川の異変

  5. 10

    ロッテ吉井監督が佐々木朗希、ローテ再編構想を語る「今となっては彼に思うところはないけども…」