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天野篤順天堂大学医学部心臓血管外科教授

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

理想の去り際は「惜しまれつつ、されど潔く」

公開日: 更新日:

 私が診ている患者さんの中に、明治大学の野球部で星野さんと一緒にプレーしていた方がいらっしゃいます。星野さんが亡くなったとの知らせを受けたとき、「ずっと親しくしていたのに、自分には何も言ってくれなかった」とひどく落ち込まれていました。「最後に会ったときにまたメシでも食いに行こうと約束して別れたのに、それも果たせなかった……」と、まわりから見ても無気力な状態になってしまったのです。

 自分が不治の病に侵されたとき、周囲には知られたくないと考える人もいます。肉親だったり、親友だったり、近しい人が自分が病気だと知ったとき、自分のことのように気遣ってくれる。そうした人たちに病気であることを伝えたら、いろいろと煩わせてしまうことになるし、これまでとは関係性が変わってしまう。それを嫌がる人がいるのです。

 おそらく、星野さんも男としてそうした気持ちがあったのではないでしょうか。残された人が無気力になってしまうのはその気持ちに報いていないのではないか。落ち込んでしまった患者さんに、私はそう言葉をかけました。死を迎えることによって肉体は滅びますが、魂も永遠の眠りにつくか、そこから新たな覚醒(評価)を得るかは残された人たちの思い一つです。生き残るということはその責任を果たすことに他なりません。

 死に対する考え方は人それぞれで、正解も不正解もありません。惜しまれつつ去る、されど去り際は潔い。私にとっては、それが理想の“死にざま”だと思っています。

【連載】天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

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