免疫細胞の自爆の連鎖が原因?新型コロナ重症化に潜む知られざるメカニズム
NETs は2つの方式で放出される。一つはDNAの放出時に細胞膜の破たんを伴う自爆型と、自らの命を守りつつ放出する生存型 NETsだ。
「自爆型放出は細胞膜を破綻させながら放出するので、細胞内から外へ大量の NETs を放出できると考えられます。一方、生存型のNETs放出では DNA成分等を小胞の中に詰めた状態で核から細胞膜まで輸送して、膜を通して小胞から細胞外へ放出するので、 NETs 放出後も細胞は生きていられます。自爆型放出には約 2 時間かかりますが、生存型では数十分で放出できることから、微生物やウイルスを認識して活性化した直後には生存型放出を選択し、時間経過とともに自爆型が主体へなることで、より多くの NETsを放出して防御を強化していると考えられます」
つまり、サイトカインストームが生じるほどウイルスの数が増えた、新型コロナウイルス感染症の重症期には自爆型のNETsが多く見られるということだ。
■感染症で血栓ができる理由は感染した部位を封じ込めるため
「NETs はウイルスや細菌などの病原体だけでなく、血小板や赤血球も同時に捕獲します。血小板はNETsの形成を促進し、NETsに結合しているヒストンとくっついて血症板凝集を生じます。さらに、トロンビンなどの内因系凝固因子の活性化を促進して繊維状のタンパク質・フィブリンを形成します。その結果、血管内血栓を作るのです。敗血症性 DIC(播種性血管内凝固症候群=血管内に血栓ができやすくなったり、簡単に出血しやすくなったりする全身病) ができるのはこのためです。血管内血栓形成は、血流を悪化させ臓器障害の原因となりうることから、体に悪いことだと考えられがちですが、感染症の際には、感染している悪い部分を局所で血液を固めて封じ込めるための"肉を切らせて骨を断つ"生体防御機構の可能性ではないかとの見方もあります」
つまり、新型コロナウイルスの強い増殖能力は、体を守るために必要な自然免疫システムであるNETsの本来の役割をなくさせ、宿主たる人間を死に至らしめるのだ。