ステーキとワインで家族と忘年会…在宅だからできたこと
そんな入院と在宅との間で迷われていた患者さんのご家族がいらっしゃいました。
その患者さんは79歳の膀胱がん末期の男性。自宅はご夫婦の住まいと息子さんの仕事場を兼ねており、昼間は息子さんがいるが、夜になると夫婦2人きり。本人は病院嫌いで自宅で過ごしたいが、体調が急変すると奥さまがパニックになって救急車を呼んでしまうこともあったそうです。
私たちの在宅医療が始まったのは、年末が近づいてきた頃。奥さまには「旦那さんの意識が朦朧とし、自分の手に負えないとなった時は、いつでも私たちに連絡してください。お正月でも構いません。すぐに対応します」と丁寧に説明し、安心してもらいました。
新年をご家族で迎えられた元日に、頂いた言葉が印象的でした。
「聞いてください、先生」と患者さん。
「昨日はヒレステーキと赤ワインで家族で忘年会をやりましたよ。家族にお疲れさまって言ってね。ヒレステーキ半分は食べましたね。赤ワインも1杯飲んで」
そして奥さまが、「こんなの(在宅医療)があるの知らなかった。先生は暮れもお正月もなくて大変ね。主人が帰ってきてすごく明るくなって、先生のおかげです。本当によかった」
それから1カ月余りで、この患者さんは旅立っていきました。
昔のように、自宅で最期の時間を過ごすことが当たり前になればよいと、切に願っています。