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天野篤順天堂大学医学部心臓血管外科教授

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

猛暑の健康管理は「脳の温度」を意識して冷やしたい

公開日: 更新日:

「体内循環」=「心臓」を守ることにつながる

 先に触れたように、自律神経は体内循環もコントロールしています。脳障害がある患者さんに対し、脳を冷やして治療する脳低温療法を開発した日本大学の脳神経外科医、林成之名誉教授の報告によると、やはり脳の温度と体内循環は深く関係していて、脳の温度が高い状態では自律神経がきちんと機能しなくなり、体内循環に関わる生理活性物質などの分泌が乱れるといいます。

 脳障害のない健常者の脳の温度が上昇したとき、体内循環に対して悪影響を与えるという科学的なデータは今のところ見当たりませんが、脳の温度が上がりすぎると自律神経がつかさどる体温、血圧、呼吸、心拍数、睡眠、摂食・飲水行動などの管理が障害され、心臓にも大きなダメージを与えるのは間違いないでしょう。それくらい、脳の温度は健康管理にとって重要だといえるのです。

 それならば、脳の温度が上がったら冷やせばいいじゃないかと考えるでしょう。

 しかし、脳の外部冷却機能は「鼻」と「耳」しかないため、意識して冷却を実践しなければ思うようには冷やせません。試しに、右側の耳を下にした状態で1時間ほど昼寝をして、脳の温度に近い右耳の鼓膜の温度を測ってみたところ、38度5分くらいまで上昇していました。脳はただでさえ発熱量が多く、常に冷却が必要です。しかし自然な脳の冷却機能は脆弱なので、暑い季節は意識して脳を冷やさなければならないのです。

 脳を冷やすためにまず意識したいのは「鼻呼吸」です。自律神経の中枢は鼻腔の真上に位置する脳の中央部にあります。鼻腔の奥には脳とつながっている毛細血管がたくさん通っていて、鼻呼吸をして冷たい空気を通過させれば、熱交換によって脳をダイレクトに冷やすことができるのです。いわば「空冷方式」です。

 ただ、吸う空気が冷たくなければ、脳もそれほど冷えません。気温28度以上の環境で過ごしていると脳が冷えづらくなり、気温22.5~23度が最も効率よく脳が働ける温度だというデータがあります。ただし、体全体が冷えてしまうと、脳は生命の危機と判断して脳の温度=深部体温を上げようとするので、吸う空気を冷やすためにエアコンの設定温度を下げる場合は、カーディガンを羽織るなどの調整が必要です。

 また、エアコンの風が直接体に当たらないようにしつつ頭側にサーキュレーターを設置しておけば、冷えた空気の循環をつくれます。かつて、寝るときは頭側に氷柱を置いていたという話があります。吸う空気を冷やして脳の温度の上昇を防ぎつつ寝入ってしまえば、交感神経がダウンして副交感神経が優位になり、体温調節も的確に機能するようになります。昔の人々も経験的に脳を冷やすための方法を実践していたのです。

 脳を冷やすには「水冷方式」も有効です。アイスパックなどで首筋や後頭部、脇の下など太い血管が通っている部分を冷やすことで全身を流れる血液を冷やし、脳を冷却するのです。

 脳は非常にデリケートで、温度が40度を超えると脳細胞が破壊されていきます。ヘルペス脳炎などの病気では脳の温度が上がりすぎて亡くなる患者さんもいます。猛暑では脳を冷やすことを意識することが、より効果的な健康管理につながると考えています。

■本コラム書籍化第2弾「若さは心臓から築く」(講談社ビーシー)発売中

【連載】上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

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