著者のコラム一覧
天野篤順天堂大学医学部心臓血管外科教授

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

「難聴」は動脈硬化性の心臓病とも深く関係している

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■リスク因子が重なっている

 これとは逆になりますが、難聴がある人は心臓病のリスクがアップする可能性も十分に考えられます。糖尿病、高血圧脂質異常症といった生活習慣病は、加齢性難聴を悪化させるリスク因子で、大規模な疫学調査でも糖尿病があると加齢性難聴を悪化させることが判明しています。

 また、高コレステロール血症の人で、自分の両親や祖父母といった近い家族に加齢性難聴の人がいる家族歴がある場合、コレステロール降下薬「スタチン」による治療の早期介入によって難聴の発症が予防されたという報告もあります。実際、臨床の現場でも、糖尿病や高コレステロール血症の治療をしっかり実践している患者さんは、比較的、聞こえが保たれている方が多い印象です。

 このように難聴リスクを上げる糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病は、動脈硬化を促進させるため、冠動脈心疾患の代表的なリスク因子でもあります。つまり、難聴と心臓病はリスク因子が重なっているのです。


 また、難聴には全身の慢性炎症が関係しているのではないか、という見方があります。慢性炎症があると内耳にも炎症が波及し、だんだんと感音難聴が進行していくと考えられています。この慢性炎症は心臓病とも深く関わっていて、体内に慢性炎症があるとインターロイキン-6(IL-6)やTNF-αといった炎症性サイトカインが過剰に放出され、動脈硬化が進んで心臓病のリスクを上げることが知られています。ここでも、難聴と心臓病のリスク因子が重複しているのです。

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