大学ナンバーワン右腕を引き当てた 広島スカウトの「苦節20年」
大学ナンバーワン右腕の大瀬良大地(九州共立大=22)はヤクルト、広島、阪神の3球団が1位入札。当たりクジを引いた瞬間、右手でガッツポーズをつくったのは、小川監督でも、和田監督でもなく、広島の田村恵スカウト(37)だった。スカウトが抽選に臨んだのはドラフト史上初だ。
樟南高(鹿児島)時代は、捕手兼キャプテンとして3年夏の甲子園で準優勝。小柄でポッチャリした黒縁メガネの選手だった。
その年(94年)のドラフト6位で広島に入団するも、プロ8年間の通算成績は62試合に出場して80打数16安打の打率2割ちょうど。もっぱら二軍暮らしだった。
「足、肩、打撃と、突出したものがあったわけではない。磨けば光る原石を取るカープが、なんだって田村を指名したのかと我々もクビをひねったくらい。甲子園ではつらつとプレー、マジメな風貌が松田オーナーの琴線に触れたようだ。とにかく現役時代から、バカがつくくらいマジメな男だった」とは当時を知るベテラン記者だ。
02年に引退。スコアラーを経て、現在は鹿児島在住の九州地区担当スカウトを務める。10年のドラフト6位・中崎翔太(21)や09年のドラフト1位・今村猛(22)が担当で、大瀬良は長崎日大高3年夏の長崎県予選で、その今村に投げ勝った右腕として当時から注目していた。
「田村スカウトが4年間追い掛けて、その思いが実った。本当によく当ててくれた。ボクが引かなくてよかった」と野村監督がニンマリなら、田村スカウトは「頭が真っ白です」と感動と興奮で唇を震わせ、しばらく放心状態だった。