TJ手術600回超の医師が語る 野球障害の実態と育成面の課題
53人にアンケート
――佐々木朗希は高校入学後に身長が伸びたそうですが、前回、酷使によって骨の成長が止まるという話があった。
「佐々木選手はまれなケースでしょう。ボーイズリーグの世界大会のセレクションでメディカルチェックを担当した際、中学3年生53人に、入学から2年間で身長が何センチ伸びたか、アンケートを行った。一般的に何センチ伸びると思いますか?」
――2年間で10センチくらいですか?
「それでは少ないですね。人生で一番の伸び盛り。通常は20センチ程度伸びるのがあるべき姿です。ただ、今はデータの集計段階ですが、全体的に早熟傾向であることがわかりました」
――身長が止まってしまっていると。
「中学1年時に160センチを超える大きな子は多かった半面、ほとんどが2年間でわずか5センチほどしか伸びていない。栄養が成長ではなく運動に消費されたり、骨の成長線である骨端線が早く閉鎖することで骨が伸びなくなっていると考えられます」
――本来ならもっと背が伸びるはずです。
「野球は上背があった方がよりパワーを発揮できる。小さい頃から頑張り過ぎて、背が伸びない、技術も伸びない、体が潰れる……いいことないですよね。いわゆる『消えた天才』が何人もいる。そういう人がもっとプロ野球に集まってしかるべきなんです」
――勝利至上主義が選手の可能性を潰していると。
「野球障害を抱えて当院に来る子供や保護者に話を聞くと、子供が自分の肘を犠牲にして、チームの勝利のために頑張ってしまう。そういう状況を大人がつくってしまっている。酷使の身体的なリスクを知らず、勉強もしない指導者は少なくないと思います。指導者の意識を変えないと、解決しないでしょう。昨年、ドミニカ(共和国)の学童野球を調査しましたが、投球数を控えるなど体に負担をかけない練習法でビュンビュン速い球を投げている。多く投げることに意味があるのではなく、関節をうまく使って投げられるかなんです」
――指導者向けのセミナーを行うなど、啓蒙活動に取り組んでいます。
「今年4月に『館林慶友ポニー』を設立しました。中学1年生の12人、土日に3時間のみ練習を行っています。故障させず、勝つことだけを目的にせず、短時間の練習でも成長できるチームにしていきたいと思っています」
(おわり)