TJ手術600回超の医師が語る 野球障害の実態と育成面の課題
前日、大船渡高・佐々木朗希がマークした163キロに警鐘を鳴らした慶友整形外科病院の古島弘三医師(48)は、これまで600件以上の「トミー・ジョン手術」に携わり、全国の少年選手の野球障害と向き合ってきた。医療現場から見た野球障害の実態、少年期の育成のあるべき姿について、話を聞いた。
■胸郭出口症候群
――小学、中学時代に肩肘に障害を抱える子供が多いそうですね。
「当院には酷使されて壊れてしまった子がたくさん来ます。肘の靱帯や肩の腱の障害に限らず、肩が痛いという子供の中には、胸郭出口症候群による神経障害を抱えているケースもある。首の根元部分に血管や神経が出てくるトンネルがあるのですが、投球動作を繰り返すことで胸郭出口の神経が圧迫され、肩や肘の痛み、腕のしびれやむくみが出ることがある。これは難しい病態であり、メディアに話していませんでしたが、実はこの手術を何度も行っています」
――酷使によってさまざまな障害が出てくると。
「夏の甲子園出場校の選手が故障し、大会中に手術をしたこともあります。メディアも甲子園で活躍した選手だけを取り上げ、美談化するのではなく、こうした部分にも目を向けるべき。高野連も全国の高校にどれだけ肘を痛めている子がいるかを調査したり、小中生に向けて警鐘を鳴らしたりしてもいいと思います」
――日本臨床スポーツ医学会は「青少年の野球障害に対する提言」として、例えば高校生は「全力投球数は1日100球、週500球を超えないこと」と発表している。
「球数制限はもっと厳しくすべきです。メジャーのピッチスマート(年齢ごとに1日の球数上限、投球数ごとに必要な休養日を定めたもの)が良い基準になるが、米国人は日本人より一回り体が大きいと考えれば、日本の場合はマイナス1歳、マイナス10球程度を想定し、日本独自のものを作った方がいいでしょう」