日本ハム劇的サヨナラで今季2勝目も…新庄監督の「トライアウト」にフロント戦々恐々
サヨナラ打の宇佐見真吾(28)目掛けて、選手が次々とペットボトルの水を浴びせる。試合後の日本ハムナインは、ハチの巣をつついたかのような騒ぎ方だった。
6日のロッテ戦にサヨナラ勝ち。開幕11試合目にして、ようやく2勝目(9敗)を挙げただけに白星に飢えていたのは理解できる。
■「目先の1勝より今後の成長」
ルーキーで開幕投手の北山亘基(22)がリリーフでプロ初勝利を挙げれば、打っては4年目の野村佑希(21)と5年目の清宮幸太郎(22)に一発が飛び出した。
もっとも、新庄剛志監督(50)が去る5日に、「目先の1勝より、今後の成長」と話したように、重要なのは若手の実力が本物と言えるようになること。だからこそ新庄監督は今季を「1年間のトライアウト」と位置付けている。当日発表の日替わりスタメンで打順をめまぐるしく変えているのも、選手の実力を見極めるためだ。
開幕3連戦後に一、二軍を行き来した14人は、コロナ感染者が続出した楽天を除く11球団で2番目に多い数字。選手をとっかえひっかえ起用し、野手の細川、野村、上野は出場登録当日に起用されている。
照準はあくまで来年の新球場元年
本番はあくまでも来年、600億円超をつぎ込んだ新球場元年だ。新庄監督は昨秋の就任会見で「(今季は)優勝を目指さない」と言っているし、フロントもこの時期の結果に関してはある程度、織り込み済みだろう。
とはいえ、「トライアウト」に参加している若手たちが来季、優勝争いをするだけの戦力になり得るのか。
野手に関して言えば、オープン戦5本塁打の万波中正(22)や、元気いっぱいで長打が売りの今川優馬(25)が一本立ちすればともかく、シーズンに突入すると、それぞれ打率・120、同・176、1本塁打ずつと振るわない。キャンプからアピールをしていたドラフト3位ルーキー水野達稀(21)や、昨季に西武からトレードで獲得した佐藤龍世(25)は、10打席以上立って無安打。4日にそろって二軍落ちした。
■「課題は育成」の見立て
現時点で気を吐いているのは打率・314の近藤健介(28)や・357の松本剛(28)ら、昨年までも起用されていた実績のある中堅どころ。あとは新外国人の・269、2本塁打のアルカンタラ(30)くらいだ。
日本ハムは本拠地を札幌に移転した2004年以降の13年間でリーグ優勝5回、日本一2回、Aクラス入り10回。FAなどの大型補強に頼らず、「スカウティング(ドラフト)」と「育成」によって自前の選手たちで結果を出し続けてきた。
しかし、その後の5年間は3位が1回あるだけで、あとは5位。川村球団社長は1月31日付毎日新聞夕刊のインタビューで「育成が課題」「これまではFAで去る選手がいても、若手が台頭していましたが、少し停滞しているのかな」と話している。
だからこそ新庄監督には「育成」を託したわけで、川村球団社長は「補強も含め、再びAクラス常連に戻るだけの選手、環境はそろっています」とも発言している。
■スカウティングの問題
今季、獲得した新外国人4人の年俸は合わせて5億8000万円。金満と言えない球団にしては珍しく大金をつぎ込んだのは、若手の成長と合わせれば「Aクラス常連に戻れる」という勝算があるからに他ならない。
「優勝なんか目指しません」という新庄監督の発言の是非はともかく、昨年の秋季キャンプや今春の沖縄キャンプでの言動はおおむね好評だ。「選手は横一線」と公言して若手を刺激、数々の斬新な練習方法や選手起用にしても「トライアウト」の手段としては有効かもしれない。新庄監督のハンドリングが正しいという条件付きだが、それでも「Aクラス常連」に戻るだけの戦力がそろわなければ、「育成が停滞している」というフロントの見立て自体が間違っていたことになる。
だとすれば問題は「育成」でなく「ドラフトによるスカウティング」だろう。新庄監督は「(選手を変えるには)やっぱり気持ちの面。プロ野球に入ってくる選手のレベルは、ほぼ一緒なので」と話しているものの、それも程度の問題ではないか。極端な言い方をすれば、プロに入ってくる選手のすべてが大谷(エンゼルス)やイチローや松井秀喜になれるわけではない。あるレベルまでは「育成」で何とかなっても、それ以上は限界があるし、日本ハムが近年のドラフトで獲得した選手はいくら鍛えても「Aクラス常連」の戦力にならないことになる。
今季の結果次第ではフロントの手腕が問われるだけに、背広組はいまから戦々恐々か。