阪神・青柳晃洋に漂う「大エース」の風格…悲劇的な敗戦もサマになる
ただ、皮肉な話かもしれないが、この悲劇的な敗戦によって青柳はますますエースの階段をのぼったようにも思う。なんというか、昔から大エースと呼ばれるようなカリスマ性をまとった投手とは、勝利の栄光だけでなく、打たれた姿にも悲劇的な色気を感じることが多かった。古くは天覧試合で巨人・長嶋茂雄にサヨナラホームランを打たれた2代目ミスタータイガース・村山実。彼はその栄光の数々もさることながら、この打たれた姿もまた、球史に残る名シーンといわれている。
のちの小林繁なんて存在そのものが悲劇的な色気をまとっていたし、他球団では80年代後期の近鉄のエース・阿波野秀幸も、伝説の「10.19ダブルヘッダー」で見せた姿に悲壮感と哀愁が漂っていて好きだった。00年代のソフトバンクのエース・斉藤和巳もいつかのプレーオフでサヨナラ負けを食らい、マウンドでうずくまる姿が忘れられない。90年代後期のロッテのエース・黒木知宏といえば、プロ野球史上ワーストの17連敗目を喫した試合で打たれた、あの有名なホームランがいつまでも語り草だ。
エースには悲劇もよく似合う。前回のコラムでは「勝てるエースになってほしい」と書いた青柳だが、悲劇的な敗戦が似合うなら、それもまた大エースのカリスマ性を生むはずだと思いたい。