ラグビー元日本代表が神宮外苑の再開発計画に警鐘「スポーツウオッシュを許してはいけない」
100年の森を壊してまで再開発は必要か
──そういえば、神宮外苑は東京都の風致地区条例で「高さ15メートル以上の建物は建設禁止」だったのが、2020年東京五輪招致に合わせて、制限が撤廃されました。
「つまり、すべてがつながっている。最初から大規模工事が前提になっているんです。もはや、ラグビー場だけの問題ではありません。私が最も懸念しているのもそこです。今回の工事では樹齢100年以上の樹木も相当数、伐採されてしまう。神宮の杜は100年前の人々が、『いつか自然な森になるように』と願いを込めて植樹したもの。にもかかわらず、資本の論理で効率性だけを追い求めていいのか」
──環境破壊を訴える声もあります。
「SDGsは世界の潮流です。環境破壊を伴う建設にはセンシティブにならなければいけないのに、それがまるで無視されている」
──イチョウ並木にも影響が出かねません。
「工事の影響で枯れてしまう、と話す人もいます。一応、伐採後は新たな植樹が計画されているようですが、『切ったからその分を植えよう』なんて単純な話ではありませんし、植樹した木が根付くかどうかもわからない。秩父宮ラグビー場の建設だって、私財を投じた日本代表初代監督の香山蕃さんや、秩父宮雍仁親王のご尽力あってのもの。そうした先人の遺志を無視して資本の論理のみに従うのは、実は計り知れない損害なのではないでしょうか。我々は取り返しのつかないことをしているのではないか。私はラグビー経験者だけに、そうした後ろめたさを感じてしまいます」
──こうした事実を知らない人も多い。
「だからこそ、私はみなさんに知ってほしいのです。さらに多くのスポーツ関係者も声を上げるべきなんです。いま、神宮外苑をめぐる工事で行われているのは『スポーツウオッシュ』という行為です。これはスポーツを利用して都合の悪い事実を隠蔽すること。老朽化したスポーツ施設の建て替えと言えば、聞こえはいいですから。僕らのスポーツが利用されているぞ、それでいいのか、と言いたいですね。そして、反対ならばその意思を示すのが大事です。黙っていると、粛々と事が運んでしまうのは神宮外苑だけでなく、どの町でも起こり得ることです」
──神宮外苑の工事には多くの人が反対していますね。
「野球関連の著作も多い米国人ジャーナリストのロバート・ホワイティングさんも、私と同様、『change.org』で神宮球場移転工事の反対署名をしています。あちらは野球、私はラグビーですが、根っこは同じ。『100年の森を壊してまで、神宮外苑の再開発は必要なのか?』ということです。効率性が叫ばれる昨今ですが、多くの人にこの事実を知ってもらい、そして一度立ち止まって考えてほしいのです」
(聞き手=阿川大/日刊ゲンダイ)
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▽平尾剛(ひらお・つよし) 1975年5月3日生まれ。大阪府出身。同志社大学、神戸製鋼とラグビーの強豪チームでプレーし、99年W杯ウェールズ大会に出場した。代表キャップ11。引退後は神戸親和女子大学大学院で教育学の修士課程を修了。現在は同大学教育学部スポーツ教育学科教授。